くましん

モーゼとアロンのくましんのレビュー・感想・評価

モーゼとアロン(1975年製作の映画)
4.0
映画は音楽と似ている。それらの運動体の構造が似ている、というべきか。リズムがあり、またその緩急がある。反復がある、が、同じものが反復しているのに時間の経過により、または、音や物語の進行により、違うものが反復するという体感がある。 サンプリングがある、ゴダールやタランティーノの映画をサンプリングの集積と指摘する向きもあるが、僕の無教養な映画史の知識では彼らの映画をそのように楽しめないため、残念である。
このように、僕では言葉にするのがむつかしいため映画と音楽の近接性を論じることはできないが、この映画は、いかに映画と音楽が近い関係にあるのか、映画のなかで表現しきっているように感じた。

シェーンベルクの歌劇を映画化している。つまり音楽と映画を直接的に組み合わせている。であるからなのか、監督である彼(ら)は映画的な表現の叙情を抑えていたように感じた。画だけ観ていると、画をただ撮っていた、としか感じられなかった。俳優(というか歌劇の歌手というべきか)の演技は動きがなかった。シェーンベルクの音楽がすでに感情の起伏を表現しているから、だから映画的な演出は必要ない。このように感じた。また、シェーンベルクの音楽が鳴り止んだラストシーンはとても映画的な表現であったのだ。このラストシーンがこれらの仮説の証拠にならないだろうか。

しかし、この映画の画がないと、シェーンベルクの音楽が楽しめないとも思う。その理由を述べることはむつかしくて出来ないが。


映画と音楽をいかに上手くマリアージュさせることが出来るのか。この映画を観て考えさせられた。
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