ねこたす

きっと、星のせいじゃない。のねこたすのレビュー・感想・評価

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大事なのは"いかに生きるべきか"より、"いかに死ぬべきか"だ。

難病ものと身構えて鑑賞したのだけれども、予想をはるかに超えて良い映画だった。感動した。

甲状腺がんを患っている主人公のヘイゼルは、サークル(ファイト・クラブ冒頭で出てくる、お互いの病気や不安について告白しあうアレ)で、骨肉腫により脚を失った少年オーガスタスと出会う…。


もう二人が出会った瞬間からお互いが意識し合って、見つめ合う。おいおい、こんな一目ぼれみたいなのあるかー?となりそうだけど、確かに演じる2人の顔がいい。特に、オーガスタス役のアンセル・エルゴートはカッコいい。
いくらでも悲劇的な話に出来ただろうに、青春の一ページのようなラブストーリーになったのも、若い彼らの力あってのことだろう。君に届けの風早みたいな男ですよホント。

同じ小説を2回読み、鬱だ!と言われ、リアリティショーを見て、薬を飲む生活。末期の患者らしい生活をしていたヘイゼルだけど、オーガスタスと出会うことによって一変する。

サークルで話されることは病気のことばかりだったが、オーガスタスは「君の話を聞かせてくれ」と訊ねる。本当にこの子には病気のことばかりだったんだろうなと考えて悲しくなった。
「酒と大麻を飲むの!」と素っ頓狂なことを言うのも、悪いことをするという現実すら考えたことが無かったからだろう。だから、親も積極的に止めることはない。ヘルペス移された?なんて親が笑いながら聞くことじゃないもんね。

そういった彼らの現実を、押しつけがましくなく描いてるからすごい。未練がましいトロフィーを友人に壊させたり、アメリカでは21歳にならないと飲めないアルコールをオランダで飲んだり。おそらく、その時まで生きているか分からないという感情もあるだろう。
お金の問題からオランダに行けないと娘に伝えた母は、あの後一人泣いたんだろうなとか。病気と何年も闘うとお金かかるし、それでも決して貧しい生活はしていないから両親もすごい努力しているだろうに、たった一回娘をオランダに連れていくことができないということが親にとってどれだけ悔しいことか。想像するだけで、こちらも悲しくなる。

オランダでは、ある歴史的人物の生家を訪れる。自分の力で登り切るヘイゼルに感動するが、この人物こそがこの物語のキーだろう。自分もそこまで詳しいわけではないが、彼女の日記は死後父によって編纂され出版された。つまりは、彼女一人ではそれが世に出ることはなかった。

初めは、なるほどそういう話かと思っていたがこれがひっくり返る。オーガスタスが、タバコを咥え「これは象徴だ」なんて言うけど、この映画はいくつかの象徴が隠されている。
"アキレスと亀"は亀にはどうやったって追いつかない、という机上の空論だったがどうやらアキレスが追い抜くことが出来る考え方が発見されたらしい。
つまりはそういうことだ。

この映画はヘイゼルの独白から始まる。主人公はヘイゼルだが、そのヘイゼルによって語られたオーガスタスの話でもあったのだ。彼は忘れられることが怖いと言うが、最愛の人と出会い語られることで何人かの記憶に残る。

人生は不公平なものだし、願いによって一喜一憂したりする。そんな星の数ほどあるようなそれぞれの人生を肯定してあげる優しい優しいとても素敵な映画だった。
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