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0.5ミリのkaomatsuのレビュー・感想・評価

0.5ミリ(2014年製作の映画)
3.5
これも例によって、音楽がきっかけで観た一本。安藤桃子監督・安藤サクラ主演という鉄壁姉妹コンビの才能をしかと見届けたかったこと以上に、エンドロールで流れる主題歌「残照」を歌う寺尾紗穂さんをリスペクトしていることが、この映画を観た一番の理由。2000年以降にデビューし、10~15年くらいの中堅キャリアを持つシンガー・ソングライターの中でも、その天性の歌声とピアノで、古き良きジャパニーズ・ポップスのエッセンスを継承し、日本各地に伝承するわらべうたも研究・調査して自ら歌うなど、地味ながら一貫したスタンスが水際立っているアーティストだ。メジャーなところでは、角野卓造さんや近藤春菜さんが出演するDOCOMOのCMのBGMとして、日本のふるさとをイメージさせるような、清らかで安らぎに満ちた歌声を聴かせている。

私が寺尾さんを尊敬しているのは、ミュージシャンとしての魅力に加え、もう一つの顔であるノンフィクション作家として、そのしなやかな音楽性とは真逆に、とてつもなく硬派なルポルタージュ本を著し、社会構造の歪みを追究しようとする、その真摯な取材魂にも起因している。そして、その二足のわらじを履く表現活動は、あの星野源さんもSAKEROCK在籍時から絶賛し、アルバムで共演もしている。ちなみに以前、その繊細で神々しい寺尾紗穂さんの生演奏に触れて心打たれ、SNSにライヴ・レビューを書いたところ、誰かにシェア(リツイート)されたのだが、あまり細かくチェックしない私は気にも留めず、そのまま放置していた。ある日、ふとツイートアクティビティを見てみたら、自分の投稿が何千人にも読まれたことに気付き、そのリツイートした人をクリックしてみたら、なんと寺尾紗穂さんご本人だったのでビックリ。自分の拙い文章が、書いた対象となる人物に、しかもプロの文筆家に読まれるという、この二重の嬉しさと恥ずかしさは言葉では言い表せないほどで、それこそ穴があったら入りたい思いだった。

寺尾紗穂さんは、山谷地区での日雇い労務者のおじいさんとの出会いをきっかけに著書「原発労働者」を書いたり、歌の歌詞にもおじいさんをよく登場させたりと、インタビューでも無類のおじいさん好きを公言している。映画『0.5ミリ』もまた、あるきっかけで家と職を失った、安藤サクラさん扮する元介護ヘルパーが、次々とおじいさんの弱みを握っては取り入って家に押しかけ、住まわせてくれるのと引き換えに、衣食住を世話するという、おじいさん大奮闘のストーリーだ。監督が姉、エクゼクティブ・プロデューサーが父、フード・スタイリストが母、そして義父・柄本明氏と義母・角替和枝さんを相手に、実に大胆不敵かつ伸び伸びとサワを演じる安藤サクラさん、今後も彼女の代表作になるんじゃないかなと思うくらい、生き生きしている。そして結構、色っぽい。冒頭はショッキング、そのあとはサワとおじいさんたちとの軽妙なやり取りに見入ってしまったが、中盤、反戦のメッセージが強くなるあたりから、ストーリーは鈍重に。そして軽妙さは完全に影を潜め…ああ、やっぱりこうなってしまうの?的な流れが、個人的には乗り切れなかったかな。でも、とても見ごたえのある作品であることは確か。
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