プペ

カニバルのプペのレビュー・感想・評価

カニバル(2013年製作の映画)
1.9
これは、女性に対して″性欲″の代わりに″食欲″を感じ、これまで欲望の赴くままに女体を文字どおり「食らってきた」男がついに見つけたと思った、″真に愛し合える者″を失う物語だ。


18禁ということで「カニバル」というタイトルからどんな残酷描写があるのかと思いきや、人体破損を描いたゴアシーンは皆無。
『冷たい熱帯魚』や『凶悪』のような腑分けシーンも勿論ない。
そもそも、直接的な暴力が映しだされることがない。
故に残酷描写を期待すると肩すかしを食らうことになる。

まず、この手の映画には付き物の生理的嫌悪感をもよおすことがなかった。
たとえば『悪魔のいけにえ』における人間を″屠殺″する猟奇性や、肉の腐臭のようなものがこの映画からは一切排除されている。
犠牲者の女性たちの裸体は美しく、死体の生々しさもない。
そして、彼女たちはいつのまにか小さく肉の塊に分けられて冷蔵庫に入れられている。
又、カルロスの家の中もいかにもな不潔さや病的な要素はなくて、清潔で整然としている。

この映画はそんな一見、″マトモな男″の殺人と人肉食という異常な行為を描きながら、その語り口はまるで孤独な男が真の愛に目覚める美しい恋愛モノのようだ。
それこそがもっとも″異様″な部分だろう。

だいたい、ポスターに書かれている「A Love Story」という言葉は正しいのだろうか。


劇中、好みの女性の肉を食い、ワインを飲むカルロスは、弟子たちに自らの身体をパンに、血をブドウ酒に例え、「記念に食すように」と語ったキリストに重ねられている。
このあたりは実に自己完結っぽい。

ホドロフスキーもそうだが、自分を救世主に重ねるような人間というのは誇大妄想的で、誰よりも自分を愛している。
だからこれは「自己愛」を描いた映画である。

カルロスの人肉食というのは、ほぼ自慰行為のメタファーといっていい。
最後まで警察に邪魔されることもなく、誰にも疑われもせず、また、女性たちの死体が美しいままなのも″オカズ″で自意識を満たしているだけなのだと思えば納得もいく。



きっと、彼女を失った彼は、またそのうち適当に見繕った女性を殺して食べるのだろう。
そして、おそらくこの先、彼が真に誰かを愛することも誰かから愛されることもない。

実に不毛でひとりよがりな人喰いの″愛″、だった。
プペ

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