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The Crossing -ザ・クロッシング- PartⅠのnoteのネタバレレビュー・内容・結末

3.8

このレビューはネタバレを含みます

1945年、上海での舞踏会の席で、国民党の将校レイは、令嬢のチョウと出会う。レイは国民党と共産党の内戦が激しさを増す中、激戦地に向かう。残されたユンフェンは、新居でザークンと署名された絵と、雅子が書いた日記を発見する。一方、看護婦ユイは食糧配給を得るために既婚者と偽り、恋人の兵士の行方を1人探していた…。

「男たちの挽歌」シリーズで知られる「アクション映画のマエストロ」ジョン・ウーが監督と脚本を担当し、内戦の時代を背景に戦争に翻弄された人々の姿を描く歴史ドラマの前編。
男たちの熱い友情と激しいアクションを絡めた演出で知られるジョン・ウー監督だが、本作は愛に生きた男女を描く泣ける「メロドラマ」大作。
日中韓のスターを揃え、「古風」な演出だが、泣けるドラマの秀作である。

内戦に赴く将校レイと、待つ身のチョウ。
台湾が日本の植民地時代に軍医として従軍していたザークンと、その恋人の日本人女性の雅子。
上海で行方不明の軍人の恋人を、看護婦をしながら探すユイ、食料配給を得るため偽装結婚をするが、ユイに惚れてしまうターチン。
主な登場人物は男性3人と女性3人。
それぞれに接点があったりなかったり、すれ違ったりと、題名の「The Crossing 」の通り、人間関係が絶妙に交錯する。

激しい戦火と美しい美術と音楽がコントラストを成す世界の中で、その絶妙なすれ違いと出会いが織り込まれる。
丁度良いところでというか、続きが気になるところで、別な人物のパートとなり、連綿と連なる物語展開は見事だ。

時系列が前後して描かれるが、実力のある役者の演技に注意していれば、話から置いて行かれることはない。
戦争に自らの意志で関わる者と、そうではない者、否応なしに巻き込まれる者と、多角的な視点が豊かである。

前編の中心となるのは、将校とその妻だが、両者の醸し出す雰囲気が、上流階級でありながら飾らず、それでいて気高さがあり、素晴らしい。
まるで誇り高い中世ヨーロッパの貴族軍人の恋のようであり、それが一際古風なのだが、厳しい任務を受けて外で懸命に働く男と、その男をひたすらに信じて待つ女の、「お互いを信じる」愛の深さが、恋愛の多様性溢れる現代において、とても新鮮に映る。

偽装結婚のつもりが、軍人ターチンは看護師ユイの気立ての良さに本気で惚れる。
普通の男ターチンの一途な想いが可愛いらしいが、それ以上に幼馴染に一途なユイが、生活苦のために娼婦にまで身をやつす姿が悲しい。

軍医ザークンの日本人女性雅子への国籍を超えた恋は、戦後に発見された日記帳からの回顧で再び燃え上がる。
日本女性がプライベートに振袖を着る生活感に違和感があるが、かつて植民地だった台湾を舞台に日本人をあからさまに敵だと見せず「悪いのは戦争だ」とする姿勢が好感が持てる。

愛が引き裂かれる分、戦争の描写も力が入っている。
至近距離での銃撃戦と、かなりの規模の爆破の量だ。
爆発の炎は一部CGだろうが、兵士のすぐ間近で爆発が起こり、兵士や車両が吹き飛ぶ、かなり危険なスタントが多く見られる。

冒頭の日本語が聞き取れる大戦の描写は、まだ敵国との戦争だとまだ納得が行くが、終盤に描かれる国民党と共産党の内戦は同じ民族同士の戦いであり、殊更虚しい。
長期化する持久戦に、飢える兵士たちに愛馬を撃ち、食べさせるレイの漢気。
味方部隊が寝返りに合い、負けが分かっていても、妻の幸せを願いながら最後まで軍人として戦い、敢えなく散る彼の誇り高さは、我が国のサムライの魂すら感じられる。

登場人物それぞれの想いが伝わってくる。
ケータイのない時代の話なので当たり前なのだが、手紙、日記、写真、絵画、音楽と、直接会えない愛する相手へ想いを込める「古風」な行為のなんと詩的でロマンチックなことか!

国、地域の背景が細かく描かれ、中国のプロパガンダなどではなく、当時の歴史を平等に扱っているのが好感が持てる。
ナチスやどこかの国を「悪者」に見立てる筋書きが多い戦争映画において、新鮮な感覚である。

続きが気になるが、ラストに映る次作の予告には(作品的に)悪い予感しかしない。
2部作ではあるが、この一作だけでも「メロドラマ」としては充分な出来だ。
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