カツマ

夏をゆく人々のカツマのレビュー・感想・評価

夏をゆく人々(2014年製作の映画)
3.8
何もないような日々にさざめく想い。青春時代は生活の糧に消え、当たり前の日常が淡々と横たわり続ける人生。動きたいのに動けない。もはや閉じているのかどうかすらも分からない。だからこそ、彼女のほんの一歩が大きな変化を巻き起こす。些細な夏の日に転がった小石のような、小さな事件の顛末やいかに。

最近では『幸福なラザロ』も好評を博し、新世代の映像作家として熱い注目を浴びているアリーチェ・ロルヴァケルによる長編第2作目となる作品で、カンヌ国際映画祭でグランプリを受賞している(『幸福のラザロ』は3作目にあたる)。監督自身のルーツを映像化し、自身の出自を劇中の主人公に投影させた、非常にパーソナルな作品となっている。養蜂家の家に育った彼女が映画監督へと向かう道は今作からは分からない。しかし、そこには見えない殻を破りたいと願う渇望感のようなものがムクムクと表現されていた。

〜あらすじ〜

そこはイタリア、トスカーナ州の片田舎。古代エトルリアの遺跡近くのこのエリアに、養蜂を営む一家が住んでいた。その家の長女ジェルソミーナは養蜂の腕に優れ、父親のヴォルフガングからも重宝されるほど。だが、ヴォルフガングは養蜂に没頭するあまり暴言も多く、子供への愛はあれど、やや横暴な側面もあった。
そんな日々が続く中、そんな人里離れた村にテレビのクルーがやってくる、というニュースが舞い込む。そのテレビ番組は『ふしぎの国』という田舎の文化を紹介する類の番組を作っており、村はその収録場所として選ばれたのであった。ジェルソミーナはその番組に出場して養蜂をアピールしたいと願うも、父ヴォルフガングは意固地に拒否し続けるばかりで・・。

〜見どころと感想〜

非常に静謐でゆったりとしたカット、自然体を切り取ったようなストーリー。どれもが刺激には満ちていなくて、それでいて大きな事件も起こらず、イタリアの片田舎を淡々と映し出し続ける。だが、その綻びの小ささが呼ぶ新たな息吹。それは長女ジェルソミーナの内面的な自立の物語であり、成長の一端を描いていた。ラクダの静止したカットなど、敢えて時間を止めるようなカメラワークが田舎らしい奔放な雰囲気を醸し出す。不思議な魅力を宿した作品だった。

少女たちが配役のメインではあるが、監督の姉でもあるアルバ・ロルヴァケルの出演や、ワンポイントで登場するモニカ・ベルッチの眩しき威光にも要注目。モニカの役柄は、映画界へと進出していく監督自身を引き寄せていくかのように輝かしく描かれており、きっと監督自身を導いた誰かがモデルになっているのだろうと思わせた。

昨今のイタリア映画は重厚感があったり、世俗的であったり、エンタメに振り切っていたりと多種多様。そんな中でもアリーチェ・ロルヴァケル作品はアーティな作風と生活感のリアルを見事に同居させており、完全に個性として確立している。彼女の作品は決して商業的ではないし、刺激的でもない。けれどもジワジワと浸透していくかのように深い感慨を染み込ませ、そこに余韻のように意味を付け足せるのはもはやセンスのなせる業なのだろう。

〜あとがき〜

自伝的な作品ということでとてもリアルな描写が目立ちます。長女のジェルソミーナが抱える葛藤のようなものはきっと監督自身がかつて内包していたものであるし、彼女がそれを解放へと向かう姿がトスカーナ州の豊かな自然と共に再現されているようです。

世界中から熱い注目を浴びるアリーチェ・ロルヴァケルの次なる一手は果たしてどうなるでしょうか。『幸福なラザロ』も素晴らしかっただけに、次作にはどうしても高いハードルを設けてしまうことをやめられませんね。
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