フラハティ

Mommy/マミーのフラハティのレビュー・感想・評価

Mommy/マミー(2014年製作の映画)
4.2
それでもあなたを愛してる。


シングルマザーダイアン。
ADHDの息子スティーブ。
吃音症の隣人カイラ。
社会から浮いた存在である親子と、一人の女性。
三人の孤独が重なり、幸せへの道が描かれる…。


『たかが世界の終わり』では、どうも独りよがりな家族のありかたのようなものが見えていたが、本作では母と子というシンプルさもあり、社会問題についても言及しているようでかなり好みだった。

本作でどうしても触れなければならない点として、画面が1:1であるということ。
どう考えても狭い画面になり、観客としても窮屈な世界として映し出される。
監督が述べているように、本作は極めて限定的な狭い世界の中にある、"自分たちだけの世界"であったり、"自分たちにしか感じられない幸せと苦しみ"ということが強調される。
自分勝手な行動をとっている登場人物たちは、自分たちの狭い世界でしか幸せを感じることはできず、社会に出れば邪険に扱われる。
輝きに満ちた瞬間。
それはほんの一瞬でしかない。


本作はただ母と子の愛についてだけを描いているだけではなく、ある架空の設定がより深さを及ぼすものとなる。
『発達障害児の親が、経済的困窮や身体的、精神的な危機に陥った場合は、法的手続きをせずに施設へ入院させることができる』
つまり、親が子どもを育てることを一時的にやめることができる。
シングルマザーとして、多くの問題を抱えたスティーブを育てるには限界がある。
愛だけでは、彼を一人前の大人に成長させることはできない。
でも私は、たった一人の子どもを見捨てたくはない。

前述したように、自分勝手な行動をとる親子とかに映るし、スティーブのADHDの症状の影響もあり、怒鳴り合うことやケンカは日常茶飯事。
こういうストレートな親子関係は、苦手な作風と感じる人もいるだろうけど、この年齢で母親の気持ちを理解しているようなドラン監督の手腕が本作にはあふれでてる。


Oasis好きとしては『Wonderwall』に触れないわけにはいかない。
"There are many things that I would like to say to you, but I don't know how."
"あなたに言いたいことはたくさんあるのに、どう伝えよう"
"You're gonna be the one that saves me."
"あなたは僕(私)にとって大切な存在"
愛情について書かれた曲だからこそ、母と子の愛情にも通じるものがある。
『Wonderwall』というタイトルは、直訳だと"不思議な壁"。


※ここからネタバレ




愛と希望のどちらを選択するか?
本作のラストではハッピーエンドとも、バッドエンドともとれる描き方。
そしてキーとなるのは愛か希望、どちらを選択したのかということ。
家族とは愛だけでは乗り越えることはできない。
少なくとも本作に登場する人物たちには到底不可能。
だからこそ両方を得ることはできない。

カイラは愛を選択した。
二人といる時間は楽しく幸せだが、本当の家族への愛は変えられない。
ダイアンは希望を選択した。
このまま一緒にいるなら、息子は私がいなければ生きていくことができなくなってしまうから。
施設に入れたほうが、まだ幸せになるんじゃないのか。
愛だけでは越えられない壁。

スティーブはどちらを選択したのか。


どうして単純に幸せな生活ができないのか。
ADHDという症状とどう向き合っていくのか。
社会的弱者に寄り添った世界は、実現可能なのか。

実社会で彼女たちのような人は多く存在している。
作品としての窮屈さは、そんなマイノリティな存在に対して向けられた視線。
生まれた時点で社会的な成功は約束されない?
一生向き合うけれど、努力が結果として生じるわけでもない。
だから現実はすごく厳しい。
でもやっぱり特別なんだよ。
ふとしたときに、息子が幸せな生活をしている未来を思い描く。
幸せを願う。
それが愛ってものでしょう。


愛してる。
でもそれだけじゃ足りない。
フラハティ

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