ヴェルヴェっちょ

Mommy/マミーのヴェルヴェっちょのレビュー・感想・評価

Mommy/マミー(2014年製作の映画)
3.8
役者陣の凄まじい演技。
顔面を張られるような衝撃の映画でした。

とある世界のカナダでは、2015年の連邦選挙で新政権が成立。
2ヶ月後、内閣はS18法案を可決する。公共医療政策の改正が目的である。中でも特に議論を呼んだのはS-14法案だった。 発達障がい児の親が経済的困窮や身体的、精神的な危機に陥った場合は、法的手続きを経ずに養育を放棄し、施設に入院させることを規定した法律である。
ダイアン・デュプレの運命は、この法律によって大きく左右されることになる…。

喜怒哀楽が激しく、おしゃべりで、いつもケバケバしいファッションに身を包んでいるダイアン(アンヌ・ドルヴァル)は、掃除婦としてギリギリの生計を立てながら15歳になる息子スティーヴ(アントワン=オリヴィエ・ピロン)と暮らすシングルマザー。
スティーヴはADHDを抱え、性格は攻撃的。常に情緒不安定で、他人を罵ったりケンカをふっかけたり、女性とみれば誰かれ構わず親密にタッチするクセが抜けないまま大人になりつつある。
だが平静なときは、やさしく素直な、どこにでもいる純朴な少年であることが、母親を困惑させていた。
スティーヴは矯正施設から退所してきたばかりで、ダイアンは自宅でこの問題だらけの息子の面倒をみることになった。
そんな二人が楽しくも困難な生活を送る中、スティーヴと意気投合した隣家のカイラは彼の家庭教師を買って出る。カイラは引きこもり気味で神経衰弱の気がある休職中の高校教師。精神的なストレスからか吃音に苦しむカイラだったが、純粋なハートを持ったスティーヴと友情を育み、カイラ自身の心も快方に向かうように見えたのだが…。

「愛だけじゃ救えないのよ、ダイアン」。矯正施設職員の言葉が刺さる。
そう、愛情だけではどうにでもならないこともある。でもADHDであっても、血を分けた息子なのだ。そんなに割り切れるものじゃないだろう。 そんな母親ダイアンの葛藤を、痛いほどに描写しきっている。
何度叱責しようとも、やさしく抱擁しようとも、粗暴な言動が止まない息子。 やわらかい光が差し込む正方形の画面は一見平穏な日々を映すようでいて、いかんともし難い日常をさらす。
一体親はどうしたらいいのか。心を抉るような衝撃が走る。
ダイアンは何度絶望に苛まれたことだろう。本人にしかわからない苦しみ。
スティーヴを施設に入所させることになったとしたら、彼女は薄情だろうか。努力不足だろうか。いや、入所となった後でも、彼女は自分を責め続けるだろう。というより、誰が彼女を責められるだろう。
母子関係、隣人関係というミニマムな世界から、人生観に一石を投じる作品。