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Mommy/マミーのSIのレビュー・感想・評価

Mommy/マミー(2014年製作の映画)
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2019.6.14
自宅TVにて鑑賞

♪"On ne change pas" ─ Celine Dion
♪"Experience" ─ Ludovico Einaudi

グザヴィエドラン。
なんといっても1:1サイズの正方形の画面アスペクト比が特徴的。
『たかが世界の終わり』同様に本当に美しいカット達。光と影、構図、カメラワーク、ピント送り、全てが一級品。ただ並みの映画ではないという衝撃から言うと明らかに『たかが世界の終わり』の方が圧倒的に鋭い。

発達障害者が法的手続きなしに入所させられる世界。
未亡人の女性ダイアン(アンヌドルヴァル)。閉鎖収容施設にてADHDの息子スティーブが放火を起こしたので一緒に住むことになる。家庭内で息子の癇癪をきっかけに殴りあう親子。ダイアンもアル中で困窮した生活を続けており、息子はADHDだけでなく暴力性と愛着障害を抱えている。隣人の吃音の元教師の人妻カイラ(スザンヌクレマン)との出会いもあり、スティーブは大学への勉強を始める。しかしある日、スティーブの施設での放火の慰謝料を求める訴状が届き、戦略的にダイアンは自分を好いている中年男性の弁護士とのデートに向かうが、スティーブが嫉妬から癇癪を起こし破談する。自分を責めるスティーブはリストカットに及ぶ。ダイアンとカイラはスティーブを半ば騙し施設に再び入所させる。スティーブは施設の夕日が映る窓に向かって拘束具をほどき走り始める。

スティーブの大学への勉強がうまくいきはじめたシーン。Oasisの"Wonderwall"がバックに流れる。スティーブがスケートボードに乗りながら前方の空間を両手で掻き分けるような動作に合わせてアスペクト比が正方形からゆっくりと9:16になる描写。最高すぎる。天才。訴状が届くことで再び正方形に戻る。
またLudovico Einaudiの"Experiece"が流れるシーン。同様にアスペ比が変わる。スティーブを半ば騙したかたちで収容施設に向かう車中、ダイアンの将来への希望がビスタサイズで描かれていく。スティーブが志望の大学に受かり裁判に勝ち?結婚し、そして孫を抱く。そのすべてが想像でしかなった事を狭まっていく画面サイズがゆっくりと観客に伝える。ボヤけたカットが多いのはそれが想像であったことの伏線か。素晴らしいシーンだった。

ポスターはスティーブが目の前をかき分ける動作をする場面写しかないと思ったがどうだろう。
夢物語にせず残酷な現実を最後まで描きながら、それでも希望にあふれた描写で終わらせるグザヴィエドラン。メッセージ性も抜群。流石。
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