不穏でザラザラとした人間関係。遠回しな嫌味、皮肉、当て擦り、批判、面罵。ドス黒い本音が時にオブラートに包まれ、時に直接ぶつかり合う。我々は普段、他者との考え方の違いや立場の違い、それによって生じる摩擦に対して見て見ぬふりをしたり、ごまかしながら暮らしているが、本作においてはいちいちその摩擦が可視化されるのである。京都風の遠回しな物言いが、反論されるごとに直接的になっていき、しまいには相手の人間性を否定する言葉の凶器へとエスカレートする。人を殺すには刃物はいらぬ、言葉で十分と言うけれど、メンタル弱い人ならたちどころに参ってしまいそうなセリフのオンパレード。小さな諍いが決裂へと真っ直ぐに進んでいく様はそら恐ろしい。
相手はこう考えるだろうという期待は裏切られる、人間の相互理解の不完全性。自分は正しいという観念や主張をいったん傍に置き、相手に委ねるとき、何かが変わるのだろうか。惜しむらくは後半台詞中心となったところ。小説ではないのでもう少し映像で語らせてもよかったのではないか。
ビクトル・エリセ作品に通じる色彩と光の美しさが素晴らしい。そして、雪の降るカッパドキアの静謐さの描き方も印象的である。