ちろる

雪の轍のちろるのレビュー・感想・評価

雪の轍(2014年製作の映画)
3.7
地獄への道も善意から
だからどんな善意も意味がない。
互いに欺瞞という壁をいつのまにか作り出し、互いを憎しみ信用しない。
それがあからさまになるのは後半なのだけど、それゆえに始まりの方の表面的な家族の薄っぺらい関係性が思い返すと虚しい。

人生後半を歩む初老が、実の妹、愛する妻、そしてそんなよく知りもしない男に次々とこてんぱんに否定されて、それでも心穏やかにいられるほど聖人なんていない。
主人公の営む洞窟ホテルやその周りの自然の景色はどれも絵画のように美しいのに、目の前の人間の心情を全て理解した上でえぐり取るような居心地の悪い会話劇。
単なる感情論としてではなく、間の取り方も、表情も含めて、計算しくしたようなやり方で皆が皆相手を責め立てるその様子が凄まじい。
「愛すること、赦すこと
もがきながらも探し続ける、魂の雪解け」
と書いてあるが、ここまでズタズタにされて赦せるのか?再起できるのだろうか?と思う。
それでもアイドゥンがこの洞窟ホテルとそこに住む妻と離れられないのは赦しや雪解けではなく老いともに押し寄せる人恋しさゆえだっただろうと思うし、それで良いのだと思った。
ストーリーとしてはとてもシンプルでなのに重厚感があり後半に行くに従って辛くなっていく。
そして辛く、登場人物誰にも共感できないという作品にも関わらず最後まで見届けたいという気持ちにもなってしまうから不思議。
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