【英雄を演じた男の物語】
『ハートロッカー』のような緊迫感もいいが、無骨なテキサス男の内面に迫り、その本当の姿をなんとか抽出しようとする。本作の良さは、そんなイーストウッド御大の優しさかな。
クリス・カイルという一人の軍人を作り出したのは彼自身か、マッチョな父親か、テキサスの風土か、アメリカという国家か。自分以外の何かのために無意識にヒーローを演じた男が、最後には肥大化した運命に飲み込まれてしまう話だった。
番犬として羊を守るために狼と戦うのではなく、番犬同士が戦う構造の虚しさ。己の鏡像のようなイラク人スナイパーを射殺した時、クリスはどんな思いだったんだろうか?