MasaichiYaguchi

アメリカン・スナイパーのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

アメリカン・スナイパー(2014年製作の映画)
4.0
イラク戦争に4度従軍したクリス・カイルの自伝「ネイビー・シールズ最強の狙撃手」を原作にしたクリント・イーストウッド監督の本作では、アメリカ精鋭特殊部隊員で凄腕狙撃手である主人公のイラク戦争を背景とした半生がドラマチックに描かれていく。
映画の冒頭にクリス・カイルとその弟に対し父親が人を羊、狼、番犬の三つの動物に擬えて諭す印象的なシーンがある。
主人公の出身地で保守的なテキサス州人の気質がよく表れたシーンだと思うが、主人公の「番犬」としての生き方が父の言葉とこの気質で方向づけられたような気がする。
彼は国を愛し家族を愛するからこそ、それを外敵から守り戦う「番犬」であろうとする。
9.11アメリカ同時多発テロを引き金として勃発したイラン戦争において、彼の確固たる信念や資質が発露する。
この実在したクリス・カイルの狙撃手としての技量が凄く、1.9キロ先の標的を射抜き、4回の派遣で160人射殺した彼の戦果は正に「伝説」。
映画で彼の狙撃シーンが何度か登場するが、恰も「ゴルゴ13」のデューク東郷のようだ。
映画の大半はこの狙撃を中心とした死と隣り合わせの戦場シーンだが、これと並行して彼の家族ドラマが描かれる。
様々な思いや決意で戦場に赴くカイルは派遣を重ねる毎に疲弊し、心が段々壊れていく。
妻はその彼を何とか立ち直らせようとするが、益々家族との溝が深まっていく。
映画は、その背景となる戦場と平和な家庭とのギャップを強いコントラストで表現する。
戦争は建物をはじめあらゆものを破壊して人命を大量に奪う。
そして戦いに生き残っても、それに関わった人々の心を破壊してしまう。
クリント・イーストウッド監督は戦争犠牲者たちを悼むような印象的なエンドロールで本作の幕を閉じる。