rage30

フレンチアルプスで起きたことのrage30のネタバレレビュー・内容・結末

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このレビューはネタバレを含みます

雪崩を目にして、家族を置いて逃げてしまった父親の話。

他人事だからこそ笑える、事件後の家族に流れる気まずい空気が面白い。
それと同時に「自分ならどうする?」と考えさせるのが、リューベン・オストルンド監督作品の醍醐味だろう。

あれだけの失態を晒しても尚、威厳のある夫を演じようとするトマスが情けなくも滑稽だ。
素直に自分の弱さと過ちを認めればいいものの、“男らしさ”や“良き夫である事のプレッシャー”が彼に虚勢を張らしてしまったのだろう。
友人のマッツもまた、恋人の小言をウジウジと気にする辺り、男にとってプライドや信頼がアイデンティティーと結びついている事がよく分かる。

一方、妻のエバにも問題がある様に感じた。
リベラルな夫婦観を批判する彼女は保守的な価値観の持ち主であり、だからこそ理想像から外れた夫が許せなかったのだろう。
確かに夫の行動は褒められたものではないが、笑い話にするなり、友人に愚痴るなり、不満を発散する方法は他にもあったはずだ。
わざわざ友人達の前で夫を公開処刑するのは、やり過ぎな様にも思える。
夫に完璧さを求め、ミスを認められない人間にしてしまったのは彼女の責任なのかもしれない。

狂言じみた遭難事件も、夫に自信をつけさせる様に見えて、結局はまた自分の理想像を押し付けてる様にも見て取れる。
そんな彼女がバスを降りる時は、子供を置いて逃げてしまうのだから皮肉なものだ。
ラスト、煙草を吸う夫は少し肩の荷が下りた様な、ホッとした表情を見せる。
禁煙してたのは夫の意思か?それとも妻に止められたのか?…そんな事を考えるのも面白い。
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