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ロンドン・リバーのkyokoのレビュー・感想・評価

ロンドン・リバー(2009年製作の映画)
3.8
イギリス・ガーンジー島で農業を営みながら女手ひとつで娘ジェーンを育ててきたエリザベス。息子アリが6歳のときに家族と別れてフランスで森林管理をしているアフリカ系ムスリムのウスマン。ふたりはともにロンドン同時多発テロの直後から行方が分からなくなった娘・息子を持つ親である。

このお母さん、決して悪人じゃないけれど、田舎の人にありがちな無知と偏見が甚だしい。
娘の下宿がムスリムが多く住む一帯だと知って愕然、親切なムスリムに対して慇懃無礼の「Pardon?」を連発。
娘が通っていたアラビア語のクラスでも教師に向かって「なんであの子がアラビア語なんか習う必要があるのよ!」って喰ってかかる。
ウスマンには「娘の改宗はあなたの息子にたぶらかされたに違いない」と言いがかり。
私が娘だったら恥ずかしくて「やめてよ、おかあさん!」って羽交い締めにしたい。

ウスマンはエリザベスがどんなに失礼な言動をしても怒らない。いつでも深い森の中にいるような目をしている。その奥に息子のことを何も知らない後ろめたさと、このテロ事件に息子が関わっているのではないかという恐怖心が横たわっているのだ。

この対照的な二人が宗教・人種を越えて心を通わせる姿にぐっとくる。
絶望を抱えながらそれでも生きていくふたりの姿は悲しいけれど強い。
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