YokoGoto

ロンドン・リバーのYokoGotoのレビュー・感想・評価

ロンドン・リバー(2009年製作の映画)
3.6
2005年にロンドンでおきたバス爆破テロ事件後、消息の途絶えた娘と息子の行方を探しにやって来て巡り合った、カトリック教徒のイギリス婦人とムスリムのアフリカ系フランス移民の男性との、2人の交流を描いた静かな作品。*2009年ベルリン国際映画祭 銀熊賞(男優賞)

88分と、短い映画ではあるが、話の本筋にあれこれ盛り込まずに、娘息子を探す母親と父親の心の葛藤だけに焦点をあてているため、分厚く深みのある作品になっている。

セリフも少なめで、母親たちの心情は、表情と場面だけで語られるが、どんな思いでいるのかは手に取るように察することができ、自然と主人公たちに感情移入しやすい。

関係が良好であった母娘関係であっても、離れて暮らす年頃の娘の事などよくわかっていない。
足跡をたどるように、偶然であったムスリムの男性と、娘・息子探しを進めていくが、最後は意外な結末になっていく。

ひたすら、娘の安否を願う母親の苦悩が胸にしみる。
それほど、主役の女優さんの演技は秀逸で、全世界の母親を代表するような痛みを表現していてすばらしい。

親子の愛を描いている反面で、国籍の違い、宗教の違い、文化の違い、そして肌の色の違い、などなど、さまざまな違いを越えた、人としての理解も表現されていて、そこは重々しい。それでも、2人の母親と父親の間に深まる相互理解は、かすかな平和への糸口のように、やさしく描かれている。


爆破テロという、あまりにも残酷な悲劇は、とうてい納得できない。

こんな思いを抱えた家族が、何十人もいるかと思うと、自然に感情移入できるし、自分の身に置き換えて考えると耐え難い苦痛がある。

2005年のロンドンで起きた連続爆破テロでは、56名の人が犠牲になった。
10年経ってもなお、テロは繰り返されている。
YokoGoto

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