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アナへの2通の手紙のOASISのネタバレレビュー・内容・結末

アナへの2通の手紙(2010年製作の映画)
3.6

このレビューはネタバレを含みます

「絵画の起源」を映像で再現しようという「シルビアのいる街で」等のホセ・ルイス・ゲリン監督による意欲作。

2010年から一年以上に渡って、セゴビアにあるエステバン・ビセンテ現代美術館で催されたホセ・ルイス・ゲリンのインスタレーション「コリントスの女」の映像を元にし、10秒から3分程度の長さで24のパートに分割したものを2部にまとめた短篇。
70年代に欧米で登場したという、何らかの物質・物体を組み合わせて設置し空間全体で表現するインスタレーションという手法を、コリントスに住んでいた娘と青年の物語を起源として描き出す。

アナ・ポルティナリへの第1の手紙では「プリニウスの博物誌」から引用された「滅びゆく芸術の尊厳に関しては以上だ」という文がそのままテーマとなり「今日ある美術館では、過去へ回帰することを歓迎している。この矛盾に関して感謝しよう。なぜなら私も原点に戻りたいからだ。起源や沈黙や白黒といった映像に不可欠なものに。」という言葉のように、ポストモダニズムとは正反対の究極なミニマリズムへと回帰して行く。
極限まで装飾を剥ぎ取り色彩を排除した後に残るのは白・黒・光・影だけの世界だが、それがモンタージュされて融合を見せていく内に暗闇の中に光の粒子がまばらに映るような錯覚を起こさせる。
何も無い空間に輪郭だけ浮かび上がり、突如「存在」という名の物体が現出するようなそんな薄気味悪ささえある。

アナ・ポルティナリへの第2の手紙では、ニンフたちの丘やピレネーの噴水などをゲリンの影が訪れ先人達が遺した足跡を辿って行く。
コリントスの娘が恋したという青年。壁に映された彼の影の輪郭をなぞることで、その場に彼が存在したという証を刻み図像を浮かび上がらせて行く手法は、光と影、陰影と光彩を巧みに操る映像マジックが素晴らしくて、影絵のシルエットの美しさや目まぐるしくそして眩く変化する光溢れるイメージ映像は、その奔流に押し潰されるような感覚をもよおした。

何か明確なストーリーがある訳ではなく、懐古主義的に描いているわけでもない。
温故知新の精神で、過剰気味になる表現方法に対しての警鐘やブレーキになればいいという様なメッセージが含まれているのかと思った。
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