shiho

悪童日記のshihoのレビュー・感想・評価

悪童日記(2013年製作の映画)
4.3
アゴタ・クリストフの三部作小説の一つ目の映画化作品。
第二次世界大戦の戦時下で、美形の双子が親元を離れ「魔女」と呼ばれる意地悪な祖母の元に疎開する。彼らは父親から渡された日記に「真実」を書き続ける。

元々Clipしていた作品だったのですが、最近やったスマホアプリゲームの「RIMBO」(一人の少年が、妹に会うためにこの世とあの世の狭間を進むゲーム。モノクロの横スクロールでちょっとミスると容赦なく死ぬ死にゲーですが、音が美しくその中を少年がひたすら進んでいく世界観がなんとも魅力的。120円でけっこう遊べるのでオススメです笑)のレビューに「悪童日記みたいな雰囲気」と書いてあったので、とても気になりまして。
(前置き長!)

映画自体は終始薄暗く陰鬱で、双子の「日記」として進んでいくので国や人の名前は一切出てきません。「僕たち」「おばあちゃん」「隣のお姉さん」「隣の国」といった感じ。

最初は戦時下でも両親の元で育ったかわいい双子に見えたのに、彼らは祖母に叩かれ大人に騙され殴られ、逃走兵が衰弱死する様を見て、自分達に訓練を課します。
「痛みに慣れる訓練」と言ってお互いの体をベルトで鞭打ちしたり、「残酷になれる訓練」と言って虫やカエルや魚をたくさん殺して壁に貼り付けたりします。
全部「残酷なおはなし」を読んでいるようで、こちらは双子達を外から観ているような作りになっています。彼らの気持ちがほとんど描写されないから。
だから察するしかない。
唯一ホロコースト大賛成のバカ女を粛清する時は「イエエエエやったれ!」と思いましたが笑。
まるで訓練された兵士のように、いやそれよりも冷酷に父親を利用するシーンはとても怖かったです。
しかしいくらなんでも両親を見て喜びもしないくらい変わってしまうもんだろうか…。
祖母が「次に脳卒中の発作が起きたら毒を飲まして殺してくれ」と頼むと、「やるよ、それが望みなら。」と実行する。

子供だから全てのことに純粋なのかな…。なんかこう考えると少年兵ってこわいなぁと思ったり。彼らは母親からの愛情のこもった手紙を燃やしながら「お母さんのことを考えると胸が痛む。お母さんを忘れなきゃ。」と言っているんですね。子供にとって全てである母親からの愛情を、触れると訓練がダメになるから、と絶っている。

この子達は実際に貧しい家庭の出で家族と離れて肉体労働している双子を監督がスカウトして来たようです。いっぱい喋らせるとあまり演技に慣れていない感じはわかるのですが、この目付きと美しい双子というだけで完全に役割を果たしていました。
昔国語の教科書で外国の炭鉱で働く幼い子供達の写真を見たのを思い出しました。油断なく相手を見る鋭い目というのかな。
目というのはたくさんのことを語ります。不思議ですよね。

子供は容赦しないから残酷なものです。彼らの世界の中では情報が少なく、偏った考え方こそが正義で、純粋なほどに外からの影響を受けやすいのでしょう。
あと双子というのは彼らにしかわからない絆があるって言いますよね。だから彼らは2人の世界があったからこそ、こうなったのかもとも思いました。

冒頭で言ったゲームと比べると特に冒険するわけではなく同じ家に留まっていましたが、そこそこ長い時間もまったく苦痛になることなく魅入ってしまう世界観でした。
気になるから原作も読みたい。

ただやはり、子供が子供らしくいられる世界であってほしい、そうでなくてはならないと思いました。
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