emi

刺さった男のemiのネタバレレビュー・内容・結末

刺さった男(2011年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

主人公ロベルトは失業中の広告マン。失敗に終わった面接の帰り道、数週間後に妻と宿泊を予定している思い出のホテルを訪ねた。
しかしホテルは既に取り壊されて、跡地からは遺跡が発掘されたらしく博物館となっていた。報道陣に押し流されるうち入館してしまったロベルトはやがて立入区域に入り込み高所から落下。奇跡的に意識はあるものの、なんと後頭部に鉄骨が刺さってしまっていた。

みんなめちゃくちゃ軽率にロベルトのそばをガシャンガシャン歩いたり、抱きついたりするじゃん…。いや、そこはよくないけど別によくて。うーん、色々考えてしまう作品だったな。

そもそもだけど警備員に制止されても無視して進んでいったロベルト。おまえ、なんでだ…!そして息子はブーツを脱げ。

自分本位な登場人物が多いので、警備員は唯一好感が持てるキャラクターだった。

代理人は人としてちょっとどうかと思うけど、あぁいう人がお金稼ぐのかなって。ビジネスマンとしてはやり手なのかも。

一番複雑な感情を抱いたのはロベルトの奥さん。夫を金儲けの道具にして駆け引きする代理人に怒ったり、ちょっとミーハーさが見え隠れする医師に疑念を持ったり、帰れないことを愚痴る救急隊員に当たったり…。家族の心情としてわかる部分も多いし余裕もないのだろうけど、代理人を呼んだのはロベルト自身。医師も難しい状況の中で最善を尽くそうとしてくれていて、救急隊員も夫のために駆けつけてくれているのに、あまりに感情的で自分本位に思えて感情移入できなかった。ブラックコメディであってヒューマンドラマではなさそうだから、真面目に捉えるのも違うのかもしれないけれど…。

ロベルト自身広告業界の人間であり、これがビジネスチャンスだとわかっている。自分を道具にしても一花咲かせたい、存在意義がほしい、爪痕を残したいという気持ちがあったのだとしたら、奥さんの計画した偽のインタビューって何気に非道い行いなのではないだろうか。

代理人はロベルトが死ぬのを見越して吹っかけ始める始末だし、倫理的には奥さんの行動や感情は正しい。けど、夫とはいえ他人の価値観を奥さんの物差しで測ってはいけないような…。

個人的にはロベルトの気持ちが少しわかる気はする。お金がほしいというより、稼ぐことで自分の人生を誇れるようになりたかったんじゃないかな。お金なんていいの愛しているわっていう奥さんの言葉はそれはそれで嬉しいものだろうけど、愛や家族だけでは満たされないものが彼にはあったんじゃないかな…。

鉄骨を引き抜いた瞬間の痛そうさは映画界随一。尋常ではない出血量をみて無事でしたエンドはなさそうだなと悟りはしたものの、本当に亡くなってしまうのなら彼の好きにさせてあげても良かったんじゃないかって。たらればだけど。

最終的にロベルトの思い通りにはいかなかった。そんな結末も含めて皮肉めいている。

主人公はほぼ鉄骨に固定されているのに面白い、不思議な一本。
emi

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