てつこてつ

メビウスのてつこてつのネタバレレビュー・内容・結末

メビウス(2013年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

これは、また、大した問題作だな!

でも、監督の単なるマスターベーションに過ぎない実験作ではなく、好き嫌いは分かれても、ちゃんとしたエンタテインメント作品として成立させているところは、さすがキム・ギドク。

全編台詞が無い構成だけに、その分、不要なカットが一つもなく、カメラ割りも完璧だし、何よりも登場キャラクターの表情の一つ一つがとてつもなく雄弁で、飽きさせること無く次々と転換していくストーリー展開を実に分かりやすく視聴者側に伝えている事実に感心する。こういう作り方をされると、むしろ、台詞が存在することが、逆に作品を台無しにしてしまう。

また、近親相姦というキリスト教上での大いなるタブーをテーマに持ってきておきながらも、登場キャラクターたちが取る、どんな行動や感情の変化に対しても、リアルな人間の多面性を考えると、素直に共感できる自分に驚いた。

つい先日見たばかりのギドク監督デビュー作品「鰐」で主演を張ったチョ・ジェヒョンもいい年の取り方をして、全ての事の発端を作る二枚目の父親役にはまっているし、母親に局部を切り取られてしまうという息子役を演じたソ・ヨンジュの繊細な表情作りの上手いこと! 母親、そして、雑貨屋の女の一人二役を演じたイ・ウヌの、時には魔性を秘めた、そして時には観音菩薩のような慈愛に溢れた表情も美しい。

ストーリー上、重要な転機を迎える毎に、父親が様々な英語の文献を漁り、'性器移植手術の失敗例'、'ペニス無くしてのオーガズム'、'A whole body is genital’(人間の身体はどこをとっても性器となり得る)などの「全て英語表記」による大切なシーンが挟み込まれるのだが、視聴途中までは、せめて、これらには字幕あったほうが分かりやすいのでは??(実際、自分は父親が手術を受けるシーンでは、それは息子の為の性器移植手術ではなく、後悔のあまり自身を性的不全にする手術かと錯覚しかけた・・)と思っていたが、91分の全編を鑑賞した後だと、おそらく、本来なら絶対にあったほうが視聴者にとっては親切であったであろう、父親がネットで息子の性的機能改善のためにリサーチする一連の下りの翻訳字幕でさえ、作品の邪魔となることに気付かされた。

改めてキム・キドク監督の鬼才に唸らされた作品ではあるけれど、決して見終わって良い気分になれる筈もなく、おそらく二度と見る事もないだろう。

性器を切断された少年が病院に入院することなくその夜のうちに応急処置だけで帰宅って・・?性器を切り取られたばかりの男性が、いくら屈強な若者でも走って逃げる少年を追いかけて捕まえることなんて出来るか・・?という突っ込みどころも気になるが、もっと気になる事がある。

'A Whole Body is Genital'理論・・手足を石で擦り剥かせてオーガズムに達するばかりか射精までしたり、肩をナイフで刺しながらオーガズム・・これが実際に起こり得ることなのか? 絶対、自分で試すことはないけどね。
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