ちろる

オマールの壁のちろるのレビュー・感想・評価

オマールの壁(2013年製作の映画)
3.8
イスラエルの鬼才ハニ・アブ・アサドが監督を務めた社会派ドラマ。
まず、主役も含め殆どの出演者がパレスチナに住む新人という事で、日常会話のシーンなど自然なやりとりにも逆にリアリティを感じられる。
まず、これを観るためにはこの地域の監視塔の張り巡らされた地域情勢と、ヨルダン西部の分離壁について知っておかなきゃいけない。
張り巡らされたその壁には、格子状の金網が視界いっぱいに続いていて、鉄塔には監視カメラと銃を構えたイスラエル兵がいるとのことでまるで刑務所のよう。
幼馴染タレク、アムジャド 2人と共に反イスラエルの活動をしているオマールは、タレクの妹ナディアと内緒で付き合っていて結婚するつもりでいたが、先制攻撃をしたことによってイスラエル軍に捕まってしまう。
オマールはイスラエル軍の犬になるように取引を要求されるが・・・

物語は、オマールの逮捕後の拷問や脅迫が中盤の多くを占めとても観ているのも苦しいのだが、それよりも、この事に付随して起きる裏切りと、残酷な人間関係の崩壊がメインに描かれている。
こんな社会情勢がなければ、この幼馴染3人の絆はこんな風に崩壊しなかったのか?
それとも、この究極の状態になったがためにその相手の本質が見えたのか?
そして最後の方にはもし自分が彼らの立場なら信念と正義を守り自分らしく生きることができるのかと自問自答していく事になった。
私たちがニュースで目にする暴力や監視による支配のみならず、実は姑息な心理操作によって反対勢力である同胞を真髄から崩壊してしまう秘密警察の恐ろしさを淡々とした映像と繊細なオマールの演技によって見せつけ、その非道さに対する怒りがずっと、ずっと後を引きずるやるせない物語だった。
ちろる

ちろる