マサキシンペイ

虐殺器官のマサキシンペイのレビュー・感想・評価

虐殺器官(2015年製作の映画)
3.6
人気絶頂で夭折したSF作家、伊藤計劃の代表作の映像化。

感情と痛覚に「マスキング」を施し、冷静な兵器として戦地での暗殺業務を全うする米国軍人クラヴィス・シェパード。訪れた地が内戦の地獄と化す謎の言語学者ジョン・ポールを追う。

物語は重厚で批評性に溢れ興味深いが、些か映画としては画の魅力が薄い。暗所の描写で単に画面が暗くなる場面が多く、細部が見づらいので、さながらラジオドラマのようになる。
ただ、感情を動かさず子供も躊躇なく殺せてしまう「マスキング」の感覚が、戦闘シーンの描写において成功していて面白い。

物語は細部のディテールに富み具象的なSFミリタリードラマとしてまずは解されるが、そのモチーフの切り取り方は象徴的でもあり現代社会への批評性も兼ね備えている。

僕達が属する資本主義社会とグローバリゼーションは、途上国の奴隷的労働によって支えられている。

チョコレートの価格はアフリカの子供の教育機会を奪った労働によって維持されているし、ファストファッションの彩りはアジアのスウェットショップの功績である。世界を見渡さなくとも過去数十年の日本経済を見れば、現行の市場は違法な労働環境の存在によって初めて存続可能なことなど自明だろう。

企業の宣伝戦略の使命は、倫理的感覚への「マスキング」である。
消費者に自身が加害者であると微塵も感じさせない楽しい装飾を施すこと。快適な生活に水を刺さないように商品から奴隷の体臭を消し去ること。

目の前にいない人達の幸福や生命よりも、身近な人達の快適と平穏が重要である。
それが資本主義社会を理解するうえで最も基本的な命題であると共に強靭なモラルなのだ。
マサキシンペイ

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