もっちゃん

アイアムアヒーローのもっちゃんのネタバレレビュー・内容・結末

アイアムアヒーロー(2015年製作の映画)
3.6

このレビューはネタバレを含みます

予想以上のグロさには驚かされたが、原作ファンとしては期待していたものが一切捨象されていたことにがっくり。

公開初日に鑑賞することができたのだが、しばらく間をおいてどんな反響があるかをうかがっていると今作の評価は私の予想とは反してかなり好評のようである。今作の評価基準を大きく分けると、一つ目にゾンビ映画の文脈で今作を語るスタンスと二つ目に原作の描写・トーンをいかに再現しているかに大別される。

前者はいわゆる米製ゾンビ映画(ロメロから『ウォーキングデッド』まで続く歴史)に対して和製ゾンビ映画がキャッチアップする可能性を今作に見出しているというわけだ。ゾンビ映画に疎い私は今作に散りばめられたゾンビ映画オマージュは一切わからないのだが。

そして後者は原作漫画が日本漫画界に果たした大きな役割を理解したうえで映画版にのぞんでいるスタンスである(私はコッチ)。いろいろと評判を見ていると、このスタンスから発言している人は高確率で今作をあまり評価していない。そこで今回はこっちのスタンスで今作のレビューをつづる。

まず鑑賞前の段階で特報が出た瞬間、今作のビジュアルデザインにはかなり期待出来るものがあった。というのも主演に大泉洋を当て、彼の容姿が完全に原作にマッチしていたからだけでなく、ZQNがかなりリアルだったからである。原作のリアルタッチなZQNが見事に再現されていることに感動したのである。

しかし鑑賞前から少し気がかりだったのが、映画版で「エンターテイメント性」を前面に押し出しているように見えたからだ。日本製ゾンビ映画といえば、私の印象だと直近のでいえば『ゾンビアイランド』のようなものが想起される。そういう類のものになってしまうのではないかと危惧したのである。

だが、ふたを開けてみるとそんな感じでは決してなく、ZQNの描写に全くの妥協もなく、そのうえで適度なユーモア(例えば、英雄の「失礼しまーす」やロッカーから飛び出すと誰もいないの件など。どれもわざとらしさがなく好印象)が仕掛けられている出来になっていた。

むしろグロさでいえば、ここ最近見たものの中では抜群にゲロゲロであった。塚地のシーンなんかは席を立ちそうになったほど。また、多くのキャストを動員したZQNたちも割と自然な演技(?)を引き出せていたように思う。

しかし、原作の良さはそういったZQNのグロさや爽快なアクション描写ではない。原作者・花沢健吾さんの得意とする泥臭く、なおかつエロくてどうしようもないヒーロー(アンチヒーロー)像はむしろ薄まっていた。
大泉洋演じる鈴木英雄は本来人類が滅亡するかもしれないという局面において、女子高生とセックスすることしか考えないダメ男であるのに、快く人助けをし、弱きものを守るステレオタイプ的ヒーロー像に描かれていたことにまず不満を覚えたのである。あれだけのグロ描写がR15で可能だったのだから、少しぐらいエロ描写を入れてもよかったのではないかとは思うが(まあ、キャスティングの段階でダブルヒロインに有村架純、長澤まさみが抜擢された時点でそれは不可能に近かった)。

さらに原作で秀逸な描写としての英雄の妄想・空想シーンが簡単に片づけられていたことにもがっかりした。多くのファンが言っているように『アイアム』の良さは一巻に詰まっている。丸々一巻を通して、「日常に侵入してくる非日常」を丁寧に静かに描写している。主人公英雄が認知できないところで非日常が潜んできて、最後の最後で一気に瓦解する。根気よく積み上げてきた伏線を一気に開放する、その絶妙なバランス感覚が最大の見どころだったのである。

映画には時間的制約があるため、これらを全て描くことはできないとしても原作のネックであるこれらの描写を少しも入れなかったのは少々見当違いであったように思う。例えば英雄の妄想の産物である「矢島」だけでも登場させてほしかったし、もしくは第一巻の第一話をどうにか入れてほしかった。大泉洋に変な踊りをさせてほしかった。

最後に、ラストの終わり方もさすがにないのではないか。原作既読者からすると、その後の展開が分かるからかろうじてよいかもしれないが、アウトレットモール編だけで話を終わらせる場合でもほかにやり方があったのではないか。それに比呂美ちゃんの役割もかなり限定的なものになったいた。彼女はかなり重要な役回りのはずだが、「感染したのになぜか意識がある突然変異」だけで終わっていてなんの解明もされないまま終わるのはあんまりである。

まあおそらく続編を作るだろうと思うが、そうだとしてもこれから後編にどうつなげていくかはかなり難しくなったと思う。原作の良さを殺したまま後編へとつなげてほしくないというのが率直な感想である。せめて原作漫画が完結するのを見届けてから映画を製作したほうが良かったのでは?