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シェフ 三ツ星フードトラック始めましたのyoshiのネタバレレビュー・内容・結末

4.2

このレビューはネタバレを含みます

個人的な話だが、初めての単身赴任が決まり、転居してからロクなモノを食ってない(作っていない)…。
「男をつかむなら、まず胃袋をつかめ!」と昔からよく言われてきた。料理上手な妻を持つ男性は、仕事が終わるとまっすぐうちに帰るので浮気ナシ、家庭円満などとよく言われるが、全くその通りだと思う。
しかし、この映画は人々の胃袋と幸せを掴む男の話である。

仕事をクビになったシェフが、旅を通してプライドと親子の絆を取り戻すロードムービー。
映画「アイアンマン」などの監督や出演で知られるジョン・ファヴローが、この作品では、製作・脚本・監督・主演をつとめている。
いかに彼がこの作品を作りたかったのかがわかるというものだが、なるほどその思い入れも理解できる。
見ていて、たいへん気持ちのいいロードムービーである。

雑にあらすじを書くと…。
腕に自信のあるが、短気な雇われシェフが、グルメなブロガーに酷評された上にメニューを変えない頭の固いオーナーと対立。
店をクビになった挙げ句、ネットに自分がブロガーと喧嘩して激怒しまくっている動画が流されネットに拡散。

評判がガタ落ちで再就職もままならず、どうしようかと落ち込んでところ、元奥さんからの勧めで、ボロボロのフードトラックを譲り受けて、修理して屋台を始める。

故郷のキューバサンドイッチ(ソウルフード)を売り出したところ、息子のネット戦略の効果もあり、屋台は大当たり。

食べた人々のツイッターが拡散する様は、さながらあのマークの青い鳥が、幸せを運ぶ青い鳥のように見える!

旅の最中に、今まで放ったらかしにしていた息子との関係が良くなって行く。
仕事に没頭したいあまり、お荷物だった息子に、一人の人間として相対し、愛情を与えるようになる。
元奥さんとの距離も回復、ブロガーも謝りに来て、投資したいと言いだし、人生が好転して行く。

最後はブロガーが出資してくれた店の開店パーティ?元奥さんとの元サヤに収まる再婚祝い?の様子が映って終了するのである。

絵に描いたようなハッピーエンド!
鑑賞後の多幸感は物凄く大きい!
実によく出来ている映画である。

まず仕事中毒な男が父親になる物語として素晴らしい。

主人公と世代が近く、子育てそっちのけで仕事中毒と言われ、妻に良く怒られていた私は、主人公に共感しきりだった。

オンボロトラックを父子が自分たちの手できれいにし、改造して立派な移動販売車に仕上げる。
そのまま全米横断しながらキューバサンドを売り歩く。仕入れや注文とり、計算等々、大人たちがいかに苦労して生活費を稼いでいるか、子どもも理解し、役に立つ喜びを覚えていく。
共に体験することが絆を生んでいく。
私ももっと子どもと出かければ良かったと後悔した。

そして、出てくる料理はどれも凄まじく美味しそうだし、それを作る過程も面白く見せている。

ラストに登場する息子が作った「毎日1秒を繋げた映像」には泣いてしまった。
あんな動画を、もし自分の息子に作ってもらったら、喜びのあまり、ガラにもなく抱きしめてしまうかもしれない。

実際に監督が料理の腕を磨いた姿勢も素晴らしい。
エンドクレジットでは、料理指導の先生が「ここをしくじったら、世界が終わる」などと言いながら、息子のオヤツとして登場したクロックムッシュを伝授する場面が流れたりする。

そして、役者は監督の人徳か、かなりの有名どころが出演しながらも、上手く捌いていて、話の展開の上でウルサイ印象はない。監督の手腕が伺える。

レストランのオーナー役のダスティン・ホフマン、元妻の前夫役にロバートダウニーJr、フロアマネージャーにスカーレット・ヨハンソン、ブロガー役には映画ツウ好みのオリヴァー・プラット。
友情出演というには豪華なメンバー。そして、それぞれがどことなく楽しんで演じている。

出色は私の大好きなジョン・レグイザモ。
「ロミオとジュリエット」のティボルト、「カリートの道」のブロンクスのベニーブランコなどを例に出すまでもないが…
出来るNo.2を演じさせたら、この人の右に出る者はいない!

あの「就職したら2番手になる」という約束を守って、レストランを辞めてフードトラックに参加する男気にはグッときた。
トラックを一晩でペイントするだけでなく、軽妙なトークの客引きもお手の物。
何より、旨いモノを食べた時のリアクションは、本気で美味いモノ食ってるとしか思えない。

テンポの良いストーリー展開、美味しそうな食べ物、軽快な音楽、登場人物の個性的なキャラクター、気持ち良いハッピーエンド…etc

あまりに出来が良い映画なので…。
ここからは少しヤキモチを言わせて頂きたい。

主人公の料理人カール・キャスパーは料理の腕前は抜群で、その業界では有名人。
他の従業員からは尊敬され、絶大な信頼を寄せられ、仕事が終わるとみんなで集まって仲良くバーで打ち上げをしたりする頼りがいのある上司。

そんな彼には、金持ちで若くてセクシーなブロンドのラテン系美女の!(完璧すぎる)元妻がいて、離婚後も仲良く連絡を取り合っている。
ソフィア・べルガラ…なんと美しい。

定期的に息子とも時間を一緒に過ごす、良き父親の一面も持っている。

さらにレストラン一番の美女であるフロアマネージャーとも付き合っている。
スカーレット・ヨハンソンもか…。

「何か作るよ❤️」この一言で女も落ちるのである。
女の胃袋を掴む男なのだ。
自宅に彼女を連れ込んでは、夜中に料理を作ってあげる優しくてできる男。
なんと羨ましい…。

それがカール・キャスパーなのだ。
あまりに「できる男」ではないか?
魅力的な男の要素を詰め込みすぎである。

しかし、お世辞にもルックスがあまり良いとは言えない監督自身が演じているので、あんな美女2人をモノにするなんて、ちょっと設定が無理があるのでは?と思ってしまう。

監督自身が自ら演じるキャラクターを、これでもかというほど「いい男」「いい父親」として演じているナルシシズムが、男としては少々鼻に付くのだ。

かつてカールがダメ男であったことを視覚的に説明するモノもある。
かつてはヤンチャであっただろう証拠の腕のゴツい入れ墨と、プライドを傷つけられるとすぐにキレる短気さと、子どもの前でも下ネタな歌をと歌う、と言ったところ。

あれで実は、家庭内ではDV癖があって、仕事でイラついて、酒癖が悪かったとか、過去を後悔する告白があったら、親近感が湧いたかもしれない。

しかし…それはシリアス過ぎて、この映画の空気を壊すだろう。

冒頭に戻る。
自慢でも、おのろけでもないが、私の妻は「男の胃袋を掴む女」だった。
それは妻の努力の賜物だったのだろう。
この映画は努力して「人々の胃袋を掴む男」の話である。

単身赴任中の私は、取り敢えず料理の腕を上げたいと思った。
そして「人の心を掴む人間」になりたいと思った。
少なくとも…離れていても、家族の心は離さない人間でありたい。
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