唯

ざくろ屋敷 バルザック「人間喜劇」よりの唯のレビュー・感想・評価

3.0
名優・志賀廣太郎さんの語りに酔いしれる為の一作。
一音一音を、丁寧に噛み締めながら紡ぐ語りの声が、優しく包容力に満ちている。
それでいて、淋しさと儚さと、老いの美しさをも湛えていて、志賀さんお一人の声なのに和音を奏でている様だ。
画面は静止画の連続によって進行するが、目を閉じて味わっている自分が居る。
彼の語りに耳を傾けていると、視覚的な情報なんてそんなに大切でもないのかしら、とも感じさせられるのだ。
これは、映画というよりも、ラジオドラマであり、朗読劇であり、読書体験でもある。

いつか私達は、黒の絵の具で、無音の静寂で、一面塗り潰される。

イタリア歌曲の様な、西洋絵画の世界そのままに映画にしてしまった作品。
にも関わらず、昔おばあちゃんの家にあった、タイル張りの旧式のお風呂を思い出した。
唯