空海花

ざくろ屋敷 バルザック「人間喜劇」よりの空海花のレビュー・感想・評価

3.8
フランスの文豪バルザックの巨大作品群『人間喜劇』の中の一篇『ざくろ屋敷』を
深澤研が精密なテンペラ画で表現。
70枚近い静止画と、古楽器の音楽、
俳優の台詞、カメラワークにより完成させた、深田晃司作品。

映像は静止画を使用しているので
“紙芝居”的ともいえるが、カメラの動きによる映像構成があり、感情の起伏が感じ取れる。
音楽も合っていて、かなり味わい深い。
こういうの“画ニメ”ともいうらしい。

テンペラ画とは乳化するものを固着材にした絵画技法で、色彩が鮮やかに残り、深みを出しやすい。乳化ということは水でも油でも良く、メジャーなのは卵を使う。
この空気感は何というか私の感じ方では壁画のような粒子感がある。
顔料を油で練るような強い艶感はなく
水彩やアクリルではこのあたたかみのある質感、色味は出せない。
あと油彩より渇きやすいので(笑)割と好き。

その後の深田晃司の映画の景色に
私は粒子感を感じていた。
何か独特のフィルターを感じる。
これはテンペラ画を扱ったことで更に強調されていたように感じた。
これはあくまで私の感覚的な感想だが。
彼に元からある映像感覚なのだと思うと感動を覚える。
深澤氏は監督の中学の時からの知り合いだとか。
意志の疎通と彼の絵が、作品の完成にやはり大きく寄与していると思う。

19世紀フランス、ロワール河近くの丘隆地帯に建つ『ざくろ屋敷』に、
ある日、謎めいた夫人と2人の男の子が移り住んできた。
街の人々は美しい夫人の素性について噂をするが、誰もその過去を知ることは出来ない。
ロワールの光に満ちた、
静かな、3人だけの美しい日々が季節と共に過ぎていく。
しかし、夫人には死にゆく時が刻一刻と近づいていた─

呼び起こされる記憶は、正に絵画のように美しく、移ろっていく。
この感情の動きは何気なく、非常にゆったりとしていて、体感している時間とは別の速度で別に動いていく。
一瞬で目眩く走馬灯もまたその一種といえるか。
静止画にした時点で“時間”は消失する。
映画の固有な時間。
クリス・マルケルの『ラ・ジュテ』は静止画とナレーションで映画を完成させた。
監督はマルグリット・デュラスの『インディア・ソング』を参考にしたとのこと。

監督は、語弊のある言い方になると断った上で、
古今東西優れた映画作家は、画家の目線を持っていると思う、と。
ドガが踊り子一人いれば絵画世界を成立させることができたように、すぐれた映画監督は人が一人歩いているだけで、その瞬間に映画を成立させることができる。
ごもっともです。

音楽は古楽器奏者の上尾直毅。
ピント「グランドソナタ」で終幕。

25歳の時に、日本人でバルザックを映像化しようと思うなんて只者ではない。
バルザックにプルースト…眠くなりやすいけれど(笑)
女性の描き方が印象的。
拙く感じる部分ももちろんあるが
余白の多い原作を、想像力を掻き立てる映像として成立させた
非常にアーティスティックな作品。
そこに入る志賀廣太郎さんの和のナレーションがこれまた沁みるのだ。。


2021レビュー#123
2020年鑑賞No.133

過去鑑賞レビューはなるべくしないのが一応マイルールですが、
1年くらいなので大丈夫でしょう😌(笑)
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