岡田拓朗

天空の蜂の岡田拓朗のレビュー・感想・評価

天空の蜂(2015年製作の映画)
3.7
上映されたのが2015年とのことで、当時は今作のようなことが日本で起こらない前提のいわゆるミステリーファンタジーとして鑑賞できたと思うけど、直近の社会情勢などを見てると本気でこのようなことが起こるのではないか、と考えざるを得ない。

原子力発電所に対してテロリストが全て止めるように促したときに、政府や警察、関係各所がどのようにそれを対応していくのか、を描いた物語。

実際に起こり得るかもしれないと思う反面、やはり映画としての作られ感はどうしても拭えず、伝えたいことやメッセージ性はわかるけど、やはり遠目に見てしまうという点ではやや物足りなさはあった。
ここは脚本にやや難ありかなと。

ただ、キャストとストーリーとしての見応え、伝えたいことのわかりやすさは十分であり、それはよかった。

映画の世界の中で、テロリストと政府や関係各所の対立構造から、原子力発電の脅威を客観的に伝え、人の命と天秤にかけたときにも結局悩んだ挙句、原子力発電を止めることができない日本政府と関係各所。

ここから日本政府は人の命が脅かされていても、原子力発電所を止めない意思決定をすることを遠回しに皮肉ってるようにも見える。
逆にそれほど原子力発電所に依存せざるを得ないのが現状であるということも伝えられる。

確かに今後、石油や石炭などの資源が有限であることから、なくなっていくことも想定されていて、原子力に頼らざるを得なくなる時代は来る可能性がある。

原子力発電所の存在においては、技術力の高さゆえに、安全が担保されるようにはなってきていると思うし、未来のために必要なものであるとやはりどう共存していくのか、を考えるのが大切な側面もあると思う。

戦争でそれが使われることはあり得ないが、生活を維持するために使われるのであれば、それ自体を闇雲に否定できない。

ただ、こんなテロが原子力発電所を止めるために、政府への反発心などのために、あらゆる方法で破壊しようとすることと自然災害とどう向き合っていくのか、においてはやはり今後の原子力発電所を維持していくための命題であると言える。
それは今作を観て強く感じたこと。

また、今作は日本の技術や人としてのすごさと素晴らしさを描きつつも、いざというときに必ずしも国が守ってくれるわけではないこともメッセージとして伝えられてるような気がする。

当たり前のように税金を納めて、当たり前にその対価として安全安心な生活を担保してくれるという等価交換の上に成り立つこのバランスそのものにも疑問を抱き、国に守られること、依存することを前提として考えずに、いざとなったら自分は自分で守る意思を持つことの必要性を感じた。
年金問題は、その最たる例でもあると言えるであろう。

鑑賞してると、そんな様々なことを考えさせられるが、公開当時の年には正直そこまで考えられてなくて、ここ最近になって様々なことにより現実味が帯びてきたなという印象。

公開当時に鑑賞した方も、今鑑賞するとまた違った感覚で鑑賞できるかもしれません。

原作が東野圭吾であることもあり、ミステリー的展開は映画としてもやはり楽しめる。
とてもバランスが取れた作品ではあるが、日本政府に対しての反発心をも感じ取れる。

まとめると、結構考えさせられて、壮大でおもしろくはあったけど、作られた感は否めなかった。
岡田拓朗

岡田拓朗