鰯

はじまりのうたの鰯のレビュー・感想・評価

はじまりのうた(2013年製作の映画)
5.0
1ドル

ニューヨーク、地下鉄の駅近くにある小さなバー。スティーブが友人のグレタを無理に舞台に引き上げて、歌を披露させる。しぶしぶ1曲を歌い上げたグレタに落ちぶれた音楽プロデューサーのダンが声をかけ、2人はそれぞれの再生のために音楽をつくろうと試みる。

だいぶ前に観ていて、久しぶりに見直したら色々刺さって泣いてしまったので感想を
グレタの冒頭の歌から少しうるっと来てしまいました。一貫して彼女がつくる歌は半径10mくらいに向かっている感じがするんですよね。そこが物語と見事に噛み合っていて、気丈に振舞う彼女の内面が全部投影されているような
こういう歌に対する捉え方が常人離れしているからこそ、グレタが彼氏デイブの浮気に気づくのも彼が書いた歌詞っていう。いや、監督すごすぎるでしょ。

一方でダンには彼なりの歌の捉え方があって、そこが好き。グレタとダンの音楽観は微妙に違うんだけど、2人合わせていい曲ができる過程にはずっと興奮しっぱなしです。だけど、共通項は「本物」を求めているということ。その共通項が、2人で野外でゲリラレコーディングによってアルバムをつくろうという考えにつながる。生の音、その場の環境、そこらにいる子どもの声、たまたま通った自転車のベル。そして、街中で燻っている音楽家のメンバー。
メンバー集めのテンポは早くて、個々の演奏者の内面は描かれないけれど服装や集まるきっかけ等から察するのも1つの楽しみでした。

映画のどの場面も、音楽に力があると信じたくなるシーンで埋め尽くされていて、多幸感に満たされます。スプリッターを使って、互いのプレイリストを聞くデートってあんなの良いに決まってるじゃないですか。ダンの家族の再生も音楽あってこそ。

笑えるシーンも多々あるのがこの映画が愛おしいところ。ニューヨークで全然売れてないグレタの友人スティーブが本当に素晴らしい。友人としてグレタを全力で励ますんだけど、妙にたどたどしかったり感情表現がわかりやすかったり、完全にこの映画のマスコットのようになっています。彼がパーティーで仕掛ける「思わず踊りたくなる曲をかけるゲーム」も最高。調べてみると俳優のジェームズ・コーデンはコメディアンとしても活躍しているそうで。間の取り方とか絶妙でした
そして、音楽映画でヒロインの彼氏が本物のアーティストというのも、すごいキャスティング。もはやずるい。彼の歌が終盤で流れれば、もう泣くしかありません。ライブ感含め号泣です

ラストのオチもうまい。そういえば、ダンが冒頭の会議でちらっと同じようなアイデアを言っていたことを思い出して、やっぱりこの映画はすごいなあと
鰯