こたつむり

はじまりのうたのこたつむりのレビュー・感想・評価

はじまりのうた(2013年製作の映画)
4.3
音を楽しむと書いて“音楽”。
そんな原点に忠実な物語。

いやぁ。とても嬉しい作品でした。
“音楽を作る楽しみ”がギュッと詰まっている作品なので、拙いながらに趣味で曲作りをしていた身からすると「うは。その感覚を映像化してくれるの!サイコー」と思わず言いたくなるのですね。

例えば、弾き語りの裏でアレンジが聴こえる場面。もうね。鳥肌ですよ。主旋律に他の楽器を乗せていく楽しさが映画で表現されるなんて、目からウロコでございますよ。特に僕の場合。自分にアレンジの才能が無いことを知っているから、主人公の才能の凄さが更に実感できるわけで。とても胸がときめくのです。

他の場面においても。
即興でメロディを奏でたり、想いを乗せて詩を綴ったり。様々な楽しみ方を描いているのが素敵です。まあ、実際の曲作りにはもっと地味な工程も存在するので、見た目重視で選択して表現しているとは思いますけどね。でも、「音楽を作ることは素敵なんだ」って映画全体から伝わってくるのが嬉しい限りなのです。

勿論、作る楽しみだけではなく奏でる楽しみも。ニューヨークの街角でレコーディングするという発想を元に、演奏する姿が風景と同化しているのが素敵でした。まあ、冷静に考えれば、周辺の住民の迷惑とか、警察さんのお世話になるとか、色々な制約があるとは思いますけどね。でも、それすらも微笑ましい光景に変える力があるのです。

そして、作る、奏でる、だけではなく。
聴く楽しみも表現しているから、誰でも物語に共感しやすいのですね。見慣れた街でも聴く音楽一つで表情を変える、とか。自分のプレイリストを見せるのは恥ずかしい、とか。「うんうん、そうだよねえ」と思わず頷いてしまうエピソードが満載なのです。

まあ、そんなわけで。
どこを切っても素敵な瞬間が詰まっている物語。しかも、本作の場合、恋愛要素を過剰に入れて気分が台無し!なんて心配も無用ですからね。安心して“音を楽しむこと”を満喫できるのです。

ただ、あえて難を言うならば。
路上録音については、ミキシングとマスタリングがとても大変だと思うのですよ。その辺りにも言及してもらえれば…って流石にそれはマニアック過ぎる指摘でありましょうか。でも、そういう裏方さんがあってこそのパッケージング。しかも、曲作りとは違う方向の才能が必要な分野ですからね。そこもフォローしてもらいたかったです。

何はともあれ。
本作を鑑賞したら音楽を演奏したくなったり、作りたくなったりすると思います。詩も曲を作ることは誰にでも楽しめるもの、だと思いますので、気が向いたら、まずは鼻歌から。ふふふ~ん♪
こたつむり

こたつむり