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はじまりのうたのdeenityのレビュー・感想・評価

はじまりのうた(2013年製作の映画)
4.0
一言でまとめるなら「いい映画」って言葉がぴったりの音楽映画。それはただ単に主人公たちがハッピーエンドでちゃんちゃん、って感じの映画ってわけではなくて、どこにも敵を作らず嫌味がなくて気取ってないところがこの作品の良さなんだと思う。

主演のキーラ・ナイトレイ演じるグレタが無理矢理引っ張り出され、渋々歌い出したそのひっそりとした歌声で始まる。周りの客は気にも止めないようなその歌声に、そのメロディーにとらわれたのは名音楽プロデューサーのダンを演じるマーク・ラファロ。ダンは業界では有名でも、ここ数年は全く才能を掘り出せずにクビになってしまった状況で窮地に陥っていた。
そんな二人の運命的な出会い。グレタの作った静かなメロディーの中に可能性を見出し、共同で音楽活動をスタートさせていく。

この前半部分でもこの作品の良さはしっかり出ているのだが、どちらも気取ったところがいい。
グレタは名プロデューサーが近寄っても売れることに興味が一切なく、自分の好きな音楽を作って好きなように歌えたらいいのだ。
ダンも過去の栄光はあるかもしれないが、そこにすがりついたような鼻高な印象はなく、むしろ自堕落なダメ人間っぷりが全開なのもいい。
だから応援したくなる。可能性を見出したシーンも素敵だ。そこにないはずの音楽が加わり、楽器が勝手に奏でられ、ダンにだけ聴こえているという演出が良かった。

街中でのプロモーションビデオを作成していくシーンはどれもドタバタだけど、どの曲も良く、街中の喧騒の中で際立つ音楽って感じがクールでPVが見たくなる。
特に屋上で歌った「tell me if you wanna go home」は最高。娘のギターがギュイーンって入ってくる辺りから本当にカッコいいんだけど、娘との関係もしっかり描かれていたからこそより良く見えた。とにかく終わってからも何度も再生したくなるくらいのシーンだ。

その後のグレタとダンの関係もまた嫌味がなくていい。恋人同士に見えるようなんだけど、そこにあるのは音楽で、共に最高の音楽を作りたいっていう思いを持っている同志だからこそああいう仲も理解できるし、あそこで一線を越えてたらこの作品の良さが台無しだった。

そういう二人だからラストの決断も納得できる。共に時間を共有した思い出のスプリッターを送るのもグレタが良き理解者だからだし、ダンもグレタが契約を結ばないと決断しても文句一つ言わないのは彼もまたグレタをよく理解しているからだ。
その決断に至ったのは元カレのスティーブの影響。音楽性の違いにぶつかった時に彼の聴かせた曲はやはりファンを喜ばせ、売れる曲なのかもしれないけど、「私が歌いたい曲じゃない。私は売れるために曲を作って歌いたくはない」ということを改めて実感し、それと共に売れていくスティーブに嫌味も一切ない別れ。それを理解したかのように大勢のファンに囲まれているのに少し寂しそうなスティーブ。

音楽映画だから曲がいいことはもちろんなのだが、この絶妙な関係性がこの作品の魅力だと思った。
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