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はじまりのうたのkomoのレビュー・感想・評価

はじまりのうた(2013年製作の映画)
4.1
シンガーソングライターのグレタ(キーラ・ナイトレイ)は、音楽で成功をおさめた恋人のデイヴ(アダム・レヴィーン)と共にニューヨークへとやって来たが、デイヴの浮気により破局してしまう。
失意の中ライヴハウスで歌っていたところを、会社をクビになったばかりの音楽プロデューサー・ダン(マーク・ラファロ)に見出され、共にアルバムを作ることになる。
そのアルバムに収録される曲のレコーディングは、なんと野外。NYのあちこちで、時に警察に追われながらも、メンバーを増やしながら演奏する日々が続いてゆく。

透き通っていて耳当たりの良いキーラの歌声にしっとり癒される幸せな時間でした。
キーラが演じるグレタは、他人に流されないまっすぐな性格とオリジナリティーの強い音楽性を持っています。当初はダンからのスカウトも断るのですが、野外での型破りな音源制作によって彼女の素晴らしい音楽の才能がどんどん解放されてゆくのがとても爽快です。

グレタとダンの、とても近くに寄り添っているのに踏み込み過ぎない関係性が理想的。
一度グレタがダンの家族の話題に深く触れてしまい波が立ってしまうシーンがありますが、仲直りをしたあとにはひとつのイヤホンを分かち合いながら二人で街を歩くシーンが待っています。
「何の変哲もない風景でも、音楽があれば意味が生まれる」というのはダンの台詞。
音楽があるのとないのとでは景色が変わるように、失恋などの痛みを知る前と知った後ではやはり世界は変わり、それから他人の痛みを知ることによってもやはり物の見つめ方が変わってきます。
その人の好きな音楽や作る音楽を知るということは、その人の痛みを知るということにも似ていると思いました。
音楽はまるで、人の心そのもの。

そして最初から最後まで一貫して、別れてしまった自分の家族を大切にしようとするダンが魅力的でした。音楽によって深まる娘との絆にも心温まります。

この映画の最後の見どころはマルーン5のアダム・レヴィーンによる『Lost stars』。
冒頭でグレタを深く傷つけ、その後のグレタの思考にも影響を与えたデイヴの感傷がラストスパートで畳み掛けられるのがなんとも憎い感じなのですが、この楽曲と儚い歌声がまた素晴らしかったです。音楽一曲で人の印象はこれだけ変わるんだなぁ。
各登場人物の思考や感情がより深く伝わってくるのは音楽映画の大きな魅力ですが、この映画の楽曲は特に歌詞がストレートで良かった。人の痛みを知ることが出来つつ、すっきりすることのできる映画でした。
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