Zhivago

チューリップ・フィーバー 肖像画に秘めた愛のZhivagoのレビュー・感想・評価

4.5
いやいや面白かった。予想と違って。予告編もっと上手くできなかったのか。予告編で損をしている。案外骨太の部分もある「男目線の男の生き様系」映画。
【バブルとセックスの相性の良さ】
【上手くいった気になっている男への戒め】
【生殖行為たる男女の形】【愛に生きたりはしない女】
私は男なのであくまで男目線で観る。シアターには女性が多かったが、女の愛の物語とか男女メロドラマという風にはみれない。よくあるメロドラマに出てくる男たちは「なんだこいつ?」みたいな変な男が多いが、本作に出てくる男どもは普通の典型的な男ばかりだ。
出てくるどの男どもにも自分自身に心当たりがあり、どの男にも感情移入してしまう。他人事ではないのだ。カネ・ビジネス・社会的地位・相場・女・セックス・ケンカ・結婚・子づくり・酒・借金・相続。。。
この作品は、男のサガを描いた物語である。主役は女性だが女性を描いているようにはみえない。男目線で男のライフスタイル(生き様)を描いた作品だ。

メロドラマ/愛のドラマにしては軽薄過ぎるんだろうと思うが、メロドラマが大の苦手な私にはむしろ好都合だった。

構成要素はてんこ盛りだが、これをチューリップバブルの生成と崩壊という相場の危うさを通奏低音に置きシンクロさせることで、男女や社会階層間の危うさを一層スリリングなものにした。上手いなあと思う。

バブル経済とセックスの相乗効果。男女の「営み」が重要な要素を担う構成だけど、背後にバブル経済があるので野心、落ち着きの無さ、慌ただしさ、虚無等が彼らの営みを通じてソワソワと伝わってくる。セックスとバブル相場は相性がいいのであろう。相場での金儲けとは興奮を伴う欲求なのであろう。

あるいはまた、女性と金に不自由しない金持ちが幸せに人生を終えられるわけでもない。クリストフ・ヴァルツ演じるビジネス成功者。今風に言えば「公開ベンチャー企業の創業社長」という感じであろう、その彼がインドで求め続ける成功もまた中毒性ある商売という欲望の発露であって、しかし彼はその業から逃れることはできない。仮に彼に跡継ぎができたとしても彼が本当に変われたかどうかは分からない。

描かれる愛も即物的だ。シンプルだ。
でも人間なんてそんなもんだ。あるいは男なんてそんなもんだろう。

ポストバブルの時代も終わりきっと新しい時代に入ったであろう今の日本でこの作品を観るとき、自分自身の社会的地位やビジネスでの一定の成功という側面が映す影を見つめながら、改めて過去の失敗を振り返り今後の戒めになり得る。

愛に生きる・愛に身をやつす悲劇の女性に共感したければ、この作品は応えてくれないだろう。

この作品、もっと上映館多くてもよいのではないか。池袋渋谷はなく新宿は一館のみ。うーん、もったいない。
今年の最も「印象的」な作品の一つに加えたい作品。
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