おーたむ

滝を見にいくのおーたむのレビュー・感想・評価

滝を見にいく(2014年製作の映画)
4.0
見たらけっこう満足感があるわりに、敷居は高くなく見やすいので、また沖田修一監督作品を借りてきました。
なかなか冒険的なキャストでびっくりしましたが、もうこの頃の沖田監督は、スターパワーに頼らなくても魅力的な作品を作れる自負があったってことなんですかね。
実際面白かったですし。

それにしても、女の人が、どんな環境・状況でも会話の取っ掛かりを見つけて、それを膨らませて、楽しめてしまうのって、あらためて凄いなと思います。
私は、年上のお姉さま方が多い職場で働いていて、そのお姉さま方が二人でも集まれば楽しげな会話が始まるという様子をよく目にするので、本作の登場人物のああいう感じは、まさにあるあるでした。
現実でああいう様子を見てると、微笑ましいというだけでなく、イラっとしたり呆れさせられたりもするんですが、そういう嫌な部分にはフォーカスせず、あくまでも人間の善性に目を向ける沖田監督は、優しい人なんだろうなと思います。
ほぼ無名の配役や、劇的な事件の起こらないストーリーがユニークなリアリティを醸し出しているにもかかわらず、どことなく本作がおとぎ話の雰囲気も纏っているのは、監督のそういうスタンスによるところも大きいんじゃないかな、などとも。
心地よい作品です。

また、単に「楽しいハプニングを体験してきたよ」というだけの話にはなってないところが、職人の技という感じで巧いです。
あまり深掘りはされませんが、本作の登場人物の中には、熟年の恋に破れた人や、闘病の末に夫を亡くした人、明言はしないものの家庭に何らかの不満を抱えている人など、辛いものを背負っている人もいます。
冒頭で見た限りでは、彼女たちはただの能天気なツアー客にしか見えなかったのに、そうした背景をチラ見せするだけで、キャラクターにもストーリーにも深みや奥行きが出てくるんですよね。
人は苦境にあっても、それを表に出さない強さや、今の一瞬を楽しめるたくましさを持ってるんだよ…ってことを感じさせる、良い演出だったと思います。
いやはや、このストーリーテリングは、もはや堂に入ってますね。

まあ、ハラハラさせるような展開はなく、話も些細なものなので、スケールはあまり感じない、小さな作品だとは思います。
でも、ほっこりした笑いと、人の持つ柔らかい強さが感じられて、私はこの作品も好きになりました。
人の悲しさ、怖さ、醜さなどを描いた作品も見ごたえがあって良いですけど、こういう、人間の美点に着目して作られた作品も、元気がもらえたり幸せな気分になったりするので、折に触れ見てみたいなあという気になりますね。
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