Epi

岸辺の旅のEpiのレビュー・感想・評価

岸辺の旅(2015年製作の映画)
3.8
黒澤清監督といえば、元々は「ホラー」だけれど、最近は、その枠にとどまらない、というか、純粋な"恐怖"を追い求めた作品は作られていないように思う。

この『岸辺の旅』も、失踪した夫を亡くしたピアノ教師の妻が、亡くなったはずの夫と、失踪したあとを巡っていく、という、幽霊なのか、幻なのか、心残りなのか、はたまた彼女の後悔の塊なのか、境目はあいまいになってる。

ただ、ここで描きたかったのは、夫の姿が現実なのか、幻なのか、幽霊なのか、定かにすることではなく、想いや行動が人に影響をもたらし、夫婦としてかけがえのないものと、文字通り"体感"することなのではないか、と映画を観ていて思っていた。

主人公の女性の切なさや、おとなしい表面が割れて漏れ出してくる危うさや叫び。
それを受け流すようにして寄り添う"夫”。

その2人の在り様が、切なくて、ときに「怖くて」、目が離せなかった。

黒沢さんだから、ホラー的な描写はお手のものなはずだが、それだけではなく、なにか、画面の中に不穏なものがあり、観ているこちら側も不安にさせる。

それは同時に、主人公の不安定な気持ちであり、よりどころのなさを伝えているようで、怖さから、切なさに変わっていった。

小松政夫扮する新聞店主にしても、ピアノを弾く少女にしても、一抹の怖さを感じさせながら、一番伝わってくるのは、喪失への悲しさと後悔。

それは主人公の気持ちにも通じるものだ。

彼女の不安定さの対極にあるのが、蒼井優扮する病院の事務員で、たくさんの人が振れているけれど、彼女の笑みは、どんなホラーより奥が深くて怖気が立った。

最後まで観て、主人公は、あれで納得できたのか?
大丈夫なのか?と気になってしまう。

解決はないし、またいつ出てくるかわからないけれど、別に前進しなくても、大切な彼がまたひょっこり帰ってきて、また旅行に行けたらいいな、と願っていた。

そう。
やっぱり、また彼女たちに合いたいのだ。