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アルジャーノンに花束をのYouのレビュー・感想・評価

アルジャーノンに花束を(2006年製作の映画)
3.3
原作翻訳を読んだのはもうずいぶん前だけど、子細も忘れてしまったけど、大事にしたい小説にずっとしまってある。

悲しいな。

シャルルは、知的には、普通でない向上を得て多項式を解いたり外国語を習得したり博士レベルの理解さえ得、その中で恐らくかつて見損なわれた母への懺悔と挽回をしていた。そこには少なからずポジティブな喜びもあっただろう。
だけど情緒的には…
賢くなり始めたときのつまらない悪口への悲しみ、賢さが急成長して蘇った記憶の母への叶わない愛着と恐れ、賢さがピークを迎えたときの自分や回りのもの全てへの怒り、退行へ踏み出したときの不安と孤独…
ものを理解できるということが、情緒的には彼に負の刺激しか与えていない。恋はポジティブなものに見えるけど、恋をしたことのある人が皆知っているように、破綻する運命の恋は総括してネガティブだ。シャルルは恋においてすら多幸感を語らず、ただ頭がはたらかず胸が苦しいとのみ評価する。

誰も本当の意味での理解者がいない中で唯一同じ苦しみを共有しているのがアルジャーノンで、彼はとても大事な慰めで崩れかけの希望で慈しみの対象だったわけだけど、彼を拐った末にあの展開に進まざるを得なかったシャルルの深い孤独と絶望はいかばかりか。
本編中にはさして大した交流もないシャルルとアルジャーノンだったけれど、それがかえって最後のシーンを際立たせたと思う。
友達だからではなく、同士だからでもなく、ただすべからく死んだネズミを慈しみ弔うシャルル本来の感性に泣かされた。
今のシャルルの頭の中ではIQ190の頃の自分やアルジャーノンはどんな姿で保管されているのだろう。
どこのシーンよりも何よりも美しいシーンだった。

ものを知ることは苦しい。
それは大切ではあるけれど、幸せかどうかはわからない。
そりゃあ「今より良くなる」なら誰もがそうなりたい。だけど「今より良く」なった代償の不幸を知ることができるのは、どうあがいても「今より良く」なった後でしかないんだよな。

ボワスリエ演じる知的向上後のシャルルは、傲慢さより行き場のないやるせなさをよく見せてくれたと思う。
「IQ103」発言はバカにしているのではなくて、自身がIQ60だった頃を知っているIQ190の自分への皮肉のように感じた。
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