LEONkei

荒野の千鳥足のLEONkeiのレビュー・感想・評価

荒野の千鳥足(1971年製作の映画)
4.0
欲望なくして生きる意味も価値も無い。

だからと言って個々の好き勝手に欲望を満たすだけのアナーキーな世界なら、とっくに人類は崩壊しているだろう。

欲望を理性によって抑制し、社会秩序を保っているのが事実だ。

その欲望を剥き出しに満たすだけの世界に、一般社会で生きるいわゆる普通の人間が突然放り込まれたなら…

理性を崩壊させ社会秩序から解放された人間の末路が、いかに醜く残酷なものか主人公を通し見定めた。



乾いた空気と無限に広がる砂漠の大地オーストラリアの田舎町〝ティブンダ〟から、教師の男はクリスマス休暇で恋人のいる〝シドニー〟へ向かう途中に立ち寄った〝ブンダンヤバ(ヤバ)〟の町で衝撃体験を受ける。

額の玉粒の汗が首筋に流れギトギトと脂ぎる〝ヤバ〟の人々は気さくで親切…一体何者なのか?

空にならないビールジョッキに、缶ビールの栓のネックレス…ビール、ビール、ビール、ビール好きには堪らないだろう。

獣のように理性を崩壊させ人間の皮を被った悪魔か怪物がこの町にいる。

あまりにも過激で狂喜乱舞する〝ヤバ〟の人間の様を、教師がのめり込み変化していく様子が恐ろしいほどに伝わってくる。

欲望を満たすために生きる事は否定もしないし、自分もその欲望の為に生きてはいる。

しかし、〝ヤバ〟の人間はヤバすぎる。(言わないでおこうと思いましたが言ってしまった)

ステーキ屋の奥で行われる賭博〝コイン投げ〟シーンは、『ディアハンター』の闇ロシアンルーレットや『ファイトクラブ』の地下施設で闇ファイトするシーンを彷彿とさせる。

その他、描写は過激で暑苦しく自己の欲求を満たすだけの排他的な世界を描く。

ビールを飲み干しても次に注ぎ込まれるビールは、泥沼にハマり込んだ無限ループの悪夢だ。

放火・殺陣・強姦を何とも思わないのに、酒の誘いを断る方が重罪だと思わんばかりの欲望に満ち溢れたヤバい町。

しかし〝ヤバ〟の町の影響で男が変貌したのではなく、人間本来の姿が呼び起こされただけの着火点にすぎない。

久々にパワフルで熱い鉄棒が脳天にグサッと突き刺さったような映画を観た。

製作者が作りたいと思う映画を撮るのと、観客が面白いと思う映画を撮るのでは明らかに描写や伝わり方が違う。

利益最優先で様々な関係者の影響を受け製作せざるおえない現在は、コンビニ商品や機能性重視な服のように創作性は低く作り手にとっては今は最悪な時代とも言えよう。

真夏に観るには暑苦しく寝苦しい夜となりそうだが、オーストラリアの大地のように荒廃し人間の本能を見せつけられたような過激な映画に強いメッセージ性を感じた..★,
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