むーしゅ

ジャングル・ブックのむーしゅのレビュー・感想・評価

ジャングル・ブック(2015年製作の映画)
3.2
 Walt Disney没後50周年にWaltの遺作「ジャングル・ブック」を実写化するという記念作品。監督は「アイアンマン」シリーズでもおなじみのJon Favreauですが、最近ディズニーにおされているのでしょうか。

 幼いころにジャングルで親を亡くしオオカミに育てられた人間のモーグリは、ある日人間嫌いのトラのシア・カーンから水の休戦が終わったらモーグリに味方する者には危害を加えると言われる。仲間が危険にさらされることを恐れたモーグリは自ら群れを離れることを選び、黒ヒョウのバギーラが彼を人間の村へ連れて行こうとするのだが・・・という話。主人公のモーグリ以外はほぼすべてCGIアニメーションで製作されていますが、中でも自然の風景はあまりの美しさにCGIだということが信じられません。またトーキング・アニマルが活躍をしますが、日本語と違って英語は口の形が大きく変わることが多いため、口の動かし方が気持ち悪く見えることもありますが、本作はあえて口元をあまり写さないように角度が工夫されており違和感無く見ることが出来ます。最近は技術の進歩が速すぎるため、この映画の映像がいつまで最先端かはわかりませんが、少なくとも現状はかなりの技術力であることには間違いないです。

 出演者に関してはニシキヘビのカーを演じたScarlett Johanssonとキング・ルーイを演じたChristopher Walkenがさすがの存在感を見せていました。Scarlett Johanssonは「her/世界でひとつの彼女」のイメージをそのままに艶のある声でモーグリを誘惑するわけですが、まさにぴったりの役。良い声質しているなと感心してしまいます。同年の「シング」は得意分野ではないキャラクターだったのであまり印象には残りませんでしたが、こちらはシーンとして短いのに十分存在感を発揮しています。Christopher Walkenはというと、やっぱり歌が良いですね。彼が歌う"I Wan'na Be Like You"の熱量と味わいが素晴らしいです。しかし残念なことにこの曲も、もう一曲の"The Bare Necessities"も曲の始まりが唐突すぎます。ミュージカルは突然歌いはじめているように見えますが、意外とあの手この手で違和感なく歌い始めたように見えるよう実は工夫しています。本作はミュージカルにしたかったというよりは、原作(アニメ版)リスペクトの意味も込めて曲数を限って使用しており、また動物が歌うという違和感が生まれやすい状況なのだからより一層気をつけるべきですが、曲の始まりが唐突過ぎてもはや逆に笑えるレベルです、残念。ちなみに彼が演じたキング・ルーイはRudyard Kiplingの原作本に登場しないディズニーオリジナルキャラクターのオランウータンですが、インドのジャングルにはオランウータンが住んでいないという理由から絶滅したとされているギガントピテクスへ変更されています。主演のNeel Sethiくんはというと1人で演じ続けたことは素晴らしいですが、同じインド人子役で言えば「ライオン 25年目のただいま」のSunny Pawarくんと比べてしまうとまぁ普通かなという印象でした。

 さて本作は概ね原作通りですが、結末だけ原作アニメ版と異なり、人間の少女との出会いが描かれていません。あれだけジャングルが好きだったモーグリが人間の青年としての成長へ動き出したかのようで、寂しくもあり印象的なシーンだと思うのですが、まさか実写版がよりファミリー向けなラストを迎えるとは思いませんでした。赤い花を使いこなしシア・カーンを倒したモーグリに人間の村へいく理由が無くなった訳ではありますが、彼が自分の意思で人間に戻ろうとすることを期待していた側としては残念でした。その他演出面ではモーグリが泥を転がり川に流されるシーンで泥水がレンズに跳ねているのですが、この映画ジャングルの中ですからね。こんな演出で臨場感は全く沸きません。

 やはりこの映画の魅力はCGIアニメーションの技術力につきますね。ハリウッドってとうとうここまで来たのね、が楽しめる映画です。しかし5年10年たてば技術力はまた更新されていくと思うので、今が旬の作品だと思います。ちなみに同時期に製作されたことからわざと公開を遅らせていたAndy Serkis監督のワーナー・ブラザース版ジャングル・ブック"Mowgli"が漸く今年(2018年)公開されることになりました。こちらは南アフリカで撮影され、よりシリアスな内容になっているとのことでどちらのジャングル・ブックに軍配があがるのか、そちらも楽しみです。
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