てつこてつ

きみはいい子のてつこてつのレビュー・感想・評価

きみはいい子(2014年製作の映画)
3.8
原作は未読だが、これは良い映画を見たという気持ちになれた!

もはや現代日本が抱える大きな社会問題の一つである「児童虐待」「ネグレクト」をテーマに三つの物語が交錯して描かれる。

初めて学級担任を持つことになった新人先生役の高良健吾は、リアルに自分がまさに小学校4年生であった時の担任の先生とイメージがそのまま被る。

30年以上も前の地方都市の公立小学校であったが、10歳~11歳の年頃って、男子生徒よりも女子生徒のほうが大人びているので、その新人の担任の男性教師は、気の毒な事に、今思えば体質だったのであろうが、ニキビ痕が非常に目立ち、女子生徒一同から徹底的に嫌われてしまった。さすがにこの年齢では、当時はまだ不良という存在はおらず、それこそ、後に地域で一番の進学校に進んだ学級委員を務めていた女子のリーダーが音頭を取って、徹底的に先生に対して反抗的な態度を取った。名前を呼ばれても無視は当たり前、しまいには「汚いから気持ち悪い・・」等平然と女子一同から言われるという先生と生徒の立場が逆転したイジメ以外の何物でもない・・・。

そんな時に自分も含めて男子生徒一同はどうしてたかというと、やはり、あの年齢の男の子ってのは圧倒的に幼稚なので、「先生にそんな酷い態度取るな!」なんて立ち上がる程の正義感も持ち合わせておらず、ただただひたすら傍観するのみ・・。ある日、心が折れてしまった先生が教壇に突っ伏して号泣し、その合間に顔を上げた際に大きな鼻水が一本ダラリと垂れ下がっていた光景は今も脳裏にハッキリ焼き付いている。当然、そんな先生の様子を見た女子生徒一同からのバッシングは益々激しくなっていき、この作品にも出て来たような学年主任の怖い女性の先生が現れて、「いいか、お前達の担任の先生は○○先生しかいないんだ!!」とか大説教とかされたが、正直、あの当時の自分には、担任の先生に対して、平気で泣くわ、先輩の先生の力を借りるわと情けないなあという感想しか持っていなかった。その後も色んな先生仲間のアドバイスを受けたのか、その担任は休憩時間には生徒全員と相撲を取るとか頑張り続けていたが、結局、1年間何の改善することもなく、学年末には休職をして心の治療を受けるに至ってしまった。

皮肉なことに、自分が子供の頃は先生や親による体罰なんて当たり前の時代だったので、さすがに小学校1年生の担任にやられた記憶はないが、2年生~6年生までは、全員の担任から平手打ち、ケツバットなど男女問わず体罰を受けた記憶があるが、この4年生の男性教師だけは一度も体罰を行っているのを見た記憶がない。

つくづく子供って残酷だなあと思うし、幼稚園から大学4年までお世話になって来た教師の名前で未だにフルネームを覚えているのは、その小学校4年時の担当の新人の男性教師のみってことを思うと、やはり、自分なりに強烈な体験だったんだなあと改めて思う。大人になって気になってその先生のその後を当時のクラスメイトに聞いて回ってみたら、療養後、無事に他校の教師として復職されていたとのこと・・本当に良かった。

大きく映画の話から脱線してしまったが、この映画でも小学4年生という、ある意味扱いが難しい年頃の子供達の反抗的な態度に対して、高良健吾演じる教師が与える「宿題」・・。あれは、押しつけがましくも、出来過ぎた感もなく、リアルに良い試みだと思った。実際の教育関係者にも参考にしてもらいたいくらい。

にしてもニュースでは読んだことはあるが、小学校でも男女の性差別をなくすために男子生徒への「君」呼びを禁止し、「さん」呼びに統一してるってのは、子供を持たぬ自分には正直驚いた。

自身の娘への愛情はしっかり持ちながらも自らの幼少体験のトラウマから、時に癇癪を起こしてDVを働いてしまう若き母親を演じた尾野真千子の葛藤に満ち満ちた表情やイライラ感がリアルに伝わってくる演技も良いし、何よりもこのエピソードでは、服装にも全く気を遣わない肝っ玉母ちゃん風の池脇千鶴が抜群の演技力で存在感が突き抜けている。

学校の生徒達、尾野真千子演じる母親の幼い娘、自閉症疾患を持つ子供達の演技がリアルで抜群に良い。

何よりも作品全体を通して、決して、児童虐待という誠に複雑な問題に対して、出来過ぎた解決策を打ち出している訳でもなく、一つの解決のアイディアとして物語っているスタイルが押しつけがましくなくていいと思った。

小樽のロケ風景も美しい。
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