失われた俺達の本

きみはいい子の失われた俺達の本のレビュー・感想・評価

きみはいい子(2014年製作の映画)
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2017.1.9
自宅TVにて観賞

呉美保監督の作品は「そこのみにて光輝く」から2作目の観賞となる。
前作は大ファンである。本当に衝撃を受けた。
ただ、今作はどうであろうか。

彼女の映画は、映画通には評価されるが一般の人にはしかめっ面で邪険にされる、又は何の興味も示されない映画の典型といえるかもしれない。
その理由は端的に、彼女が映画のエンターテイメント性を重視していないからだと思われる。

前半のプロットは描きたい主題の日常をそのままなぞるため、全く劇的ではない。どこか有りそうな世界ではなく、実際に確実に存在する世界である。
登場人物達は虐待の連鎖、いじめ、発達障害、痴呆など各々の残酷な現実に相対し、苦しめられていく。
ラストで皆救われる事にはなるが、劇中で救いが差しのべられるのがその一度きりであるため、前半の克明すぎる描写のあまり目を背けたくなってしまう。
これは呉美保監督の作品の良さでもあり、同時に一般客を遠ざける欠点でもある。

ラストの演出について。
それまで尾野真千子とその子供を映すカットが全て無機的で低コントラストだったのに対し、尾野真千子と池脇千鶴が抱き合うカットで色調が戻るのは何とも言えない。
また、痴呆の老人が見えぬ桜を見るカットから最後にかけて、実際に紙桜を流すのはまだしも、画面にCGによる桜まで流す演出は、何故誰も止めなかったのか。

演出というものは、監督が望むから成されるのではなく、観客が望むからそう成るというのが優れた演出といえるが、今作を見てその事を逆説的に思いだしたのが辛い。
最後のカットも、描きじまいで終わる。終わらせたかったのは、一体どちらだったのか。