きゃん

きみはいい子のきゃんのレビュー・感想・評価

きみはいい子(2014年製作の映画)
3.5
優柔不断で頼りない新米小学校教師の奮闘、子どもに手を上げてしまう母親の苦悩、認知症が始まった一人暮らしの老人の日常が交差しながらストーリーが進んでいく。幼児虐待、ネグレクト、いじめ、学級崩壊、モンスターペアレント、高齢者問題など日本が抱えている社会問題がたくさん盛り込まれていた。
どの登場人物も迷いながらも懸命に生きている。

尾野真千子演じる母親は自分が親に虐待されて育ったため、子にも手を上げてしまう。親に優しくされたことがないので、子に優しく接する方法が分からない。子は親を見て育つ。だから逆に子に優しくすると子どもも誰かに優しくする。親じゃなくても良い、誰かに1回でも優しくされることで人は他の人にも優しくしたいと思う。誰かの何気ない言動によって救われる。

子供たちの演技が自然で素晴らしかった。高良くん演じる担任が子どもたちに与えた宿題の答えを生徒一人ひとりに聞いていくシーンはドキュメンタリーを見ているかのようだった。台本なしのぶっつけ本番だったようで、生徒たちの答え方はそれぞれ個性があって、素直な感想だった。はっきりと気持ちを表現できる子もいれば、曖昧な感じにしか言えない子、照れて話さない子など。子どもたちの生き生き感を上手く撮っていた。

一番印象に残ったシーンは、一人暮らしの老女と自閉症の子を持つ母親の玄関での会話。息子が障害を持っているため今まで周りに謝ってばかりいた母親が、老女にこの子はいい子だと息子のことを褒められて涙が溢れ出る。
自閉症の子弘也を演じる加部亜門くんの演技が素晴らしかった。ここまでできるのかと思うくらいの名演。
「幸せとは、晩ご飯を食べて、お風呂入って、寝るときにお母さんがおやすみって言ってくれるときの気持ちです」という弘也くんのセリフに涙が止まらなくなった。

ラストはここで終わるの?って終わり方で続きが気になる。残酷な方に捉えることも、望みの光が見えるようにも捉えられる。私は残酷な方を考えてしまった。

誰かに抱きしめられたくなる、誰かを抱きしめたくなる作品。人は人によって救われる。
きゃん

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