ニトー

パシフィック・リム アップライジングのニトーのネタバレレビュー・内容・結末

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このレビューはネタバレを含みます


どうして「トランスフォーマー」は監督が継続して「パシフィック・リム」は監督が継続しなかったのか・・・。「エイリアン」みたいにそれぞれに尖った部分があればまだしも。なんなら、一番評価の低い「エイリアン4」が個人的には一番好きだし。
ぶっちゃけ、「シェイプ・オブ・ウォーター」よりも「パシフィック・リム」の方が好きなので、「アップライジング」を観たあとだとどうしても「デルトロこっちやってくれよー」という思いがなくもない。
一応、クレジットにもデルトロの名前はあったから目は通しているんだろうけど・・・映画秘宝は読んでないし今回はパンフも買ってないからなんとも言いがたい。
 監督交代とか新しいイェーガーのデザインが公開したりフィギュアの情報が一番早かったあたりからなんとなく嫌な予感はしていたんですが。それにしても公式サイトもどうなんでしょう、これ。なんでキャストの情報なくてボイスキャストの情報が・・・?ていうか単純に情報量少なすぎでしょう。「THEATER、NEWS、POSTER、VOICE CAST」ですよ、主要なコンテンツ。ほかはほとんどがキャンペーンのバナーだし。

本編入る前に配給がユニバーサルだったのも違和感あったんですけど、よく考えたら前回はワーナーでしたからね。このロゴに遊び心があるのはいいんですけど、本編があの出来じゃIMAXのスースクみたいに「いや本編にもっと力入れてよ」という反応をせざるをえない。

ギズモードのインタビューも口止めされていたのか知らないけどほとんど作品について触れていないのも「おや」っと思ってはいたのですが、いやはや。
辛うじてイェーガーの動きについて言及しています。そこはかなり重要なところなので、気を遣っているというのはわかるのですが、わたしにしてみればあれでもまだダメですね。月で動いてんのかと思うスピード感で、正直なところデルトロほどには統御できていないのがまるわかりです。ていうか、そのためのエクスキューズとして「1作目から10年後なんでテクノロジーが向上してスピード出るんですわ」と言っているようにしか思えない。ていうかね、百歩譲ってイェーガーの動きはまだ許せるとしてもそこでパイロットがコックピットで速く動いているのを映すのはやっぱりセンスないなーと思います。おめーらランニングマシンの上で走ってるだろ、と思うほど。ヘビーなロボットとシンクロしているとはまったく思えない軽い動きにマイケル・ベイから習ったかのようなスロー演出の多用。

パイロットスーツもダメ。まず安っぽい。デナイトさん、デルトロのこだわりを何もわかっていない。マスクの顔面が露出しているのも、だったらメットかぶる意味ないじゃーん、とまでは思わないまでもちょっと意味わからない(なんか最後の方で思い出したようにホログラムが表示されるけど)。前作ではスーツを着る場面一つ取っても相当なこだわりがあるのは丸分かりなんですけど、今回はそういうのがまったくなく・・・。前作の何が評価されたのかといえば、実のところ巨大ロボットがライブアクションで戦うというところではなく、その戦い自体とそこに至るまでの細かいパーツにフェティシュを全開にしてディティールを詰めていたからにほかならない。

ところが、今回はそれがほとんどない。大体、10年でそんなに進歩するのかいなとか、パーツ単位で盗まれたところで技術が流出したわけでもないのに素人が作れるわけないだろーとか。それ以前になんで怪獣がいなくなったのにそんなにイェーガー作ってたんですかね。やっぱりあれですか、軍事力強化のためでしょうか。
イェーガーといえばデザインも今回はつまらないデザインばかり。ことイェーガーに関しては、洗練させてはいけないということをわかっていない。前作では人型を保ちつつも外連味を持たせていたのに対し、今回は骨格違うだけで個性はほぼなし。



坊主憎けりゃ袈裟まで憎い、ということなのか。前作は最初に観たときすごく興奮したんですよね。だからリバイバルで4DXがやったときも即座に観に行ったし、何度見ても冒頭の上がるBGMと出撃に鳥肌が立つ。それくらい好きなんですが、まあ今回はともかくケレン味がなさすぎてねー。ぶっちゃけ退屈ではありますよね、うん。まさか2PACのuntouchableの予告編が一番盛り上がるとは思わなんだ。



で、なんで退屈かといえば脚本と演出と構成がダメな気がする。

まず、どうしてニュートをあんなことにしたのか。ニュートはさ、言うなれば怪獣フリークとしてのデルトロの投影でもあるわけじゃないですか(そうなのか?)。そして、前作ではそれゆえに世界を救うキーとなるわけですが、今回はそれが危機を招くわけです。オタク映画であるはずのパシリムにオタクの(汚穢に満ちた)純心を弄ぶような采配にははっきり「わかってない」と言いたい。ここからはかなりやっかみに近い邪推なのですが、レジェンダリーの意向で脚本にちょっと手が加えられたりしたんじゃないかなーと思ったり。というのも、今回の話は順当にいけば無人イェーガーを推し進める大企業のトップであるジン・ティエンが黒幕であっていいはずなのです。怪獣をコントロールできる(と思っていた)術を持っているので、その技術でもって怪獣を複製して操作すれば自社の無人イェーガーを配備することができておいしいマッチポンプができるわけです。しかし、やはり怪獣はコントロールできずに暴走して・・・という感じでいけば本編の構造をほとんど破壊することなく、そしてニュートのキャラクターをオタク性を汚すことなく話を進めることができたはずなのです。ていうか、最後にスクラッパーを操作するのだって、本当だったらぽっと出な上にほとんどキャラ描写のされない女じゃなくてニュートがやるべきでしょう。だってこの女、後半になっていきなりキャラが変わったかのように積極的に手伝い始めるんですもの。いや、理屈はわかりますけど、それまで大して何もしてないどころか全世界に無人イェーガーを配備していた、いわば加害者側に立っていたはずなのになぜかこっち側にいるんですよ。なんだそれ。

まあ、本当にしょうもない邪推でしかないんですが、わたしが邪推をするのには理由がありましてね。このジン・ティエンという女優さんのフィルモグラフィ。「グレートウォール」「キングコング」そしてこれ。大して活躍しないけどなぜかメインにいるということが多いですね。「グレートウォール」に関しては出ずっぱりですが、これはおそらく中国側が主導していたからなのでしょう。「キングコング」ではなぜか顔が小奇麗のままだった、なんて言われてましたし。まあ真実はどうあれ、脚本はどうかと思う。

さらに言えば、全体的に緩急がない。急ばっかりな話の構成に加えて演出もそれに拍車をかけるばかりで、またくタメがない。いつの間にか場所を移動していたり、なぜか理論上だった話が後半でいきなり使えるようになっていたり。ていうか全体的にチャカチャカしすぎ。しかもこの技術、ただの推進ロケットなんです。ま、それはいいんですけど、この発進シークエンスにもなーんのタメがない。ちょっとパイロットの掛け合いをしてすぐピューンと飛んでいきます。別に空中戦をするわけでもなく、ただ移動するためだけに。しかも肝心の空飛んで移動するシーンがねーでやんの!デルトロだったらまずはブースターをイェーガーに装着するところを描くからね。

ラストバトルなんて本当にひどくて、戦いそのものが雑な上にキャラ描写が薄すぎてなんの思い入れもない奴らが死んでいったりする。勝手な行動をして死んだだけなのに悲壮感出されても困る。あと、間が持たないのか知らないけれどバトルの途中途中で司令部にいる人(実質二人)のバストショットと顔アップで繋ぎすぎ。

肝心な戦闘も退屈なのは本当に痛い。4体もイェーガーいるのに連携とかまったくやんねーでやんの。今回はどことなくエヴァンゲリオン、特に「瞬間、心重ねて」を思わせるシーンが多い(冷蔵庫の裏から撮るカットや、ラストの戦闘後のやりとりなんかは間違いなくシンジ君とアスカだし、イェーガーの顔が吹っ飛んで目の前に落下するのとかは「男の戦い」からだろうし)くせに、肝心のチームワークは描けていないという体たらく。

ラストの戦いといえば、別にブースターを手に溶接する必要はないのではないでしょうか。持てばいいんじゃないでしょうか。

一応、アマーラのトラウマをジェイクが払拭させるというような感じにはなっているのですが、いかんせんここもタメがなくあっさり手を掴む。まああそこでモタモタやられてても困るのですが。この辺は本当に言いたいことが結構あって、まだ成功していない段階から「世界を救ったんですもの」とか言っちゃうお気楽思考ね。そもそも、怪獣との戦いに緊迫感ないんだよ、この小娘。

もしかするとデナイトはドラマ畑の人間だから、2時間ちょいで話を収めきるのに向いてないのかもしれない。メンバーを掘り下げようと努力しているような場面は見られたので。

終わり方も「え、それで終わり」という感じだったし。


あ、でも良い部分もありましたよ。ジプシーアベンジャーのフィストを吸収してカット割らずに怪獣のカウンターパンチを繰り出すところはケレンミありましたし。マコとジェイクのやりとりもなんか人種や血を超えて通じ合うという部分に和みましたし(もっとここは多くて良かったよ)。あと怪獣のデザインはちょっとだけ異形感が増して良くなった。正直、前作の怪獣は怪獣というよりはモンスター感の方が強かったので。
あとボィエガね。この人は本当にいい役者で、墜落したヘリの元に向かって走っているときの感極まってしまっている表情なんか本当にうまい。

そういえば、マッケンユウどこにいたってくらいほとんど出番ありませんでしたね。

「パシフィック・リムならなんでもいいの」っていう信者の人は観に行ってもいいかもだけど、前作の純粋なファンであるほど今回のにはがっかりすると思います。いわゆるハリウッド大作の一つとして観れば可もなく不可もなく「こんなもんだろ」と観ることはできますかね。
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