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マイ・インターンのsanbonのレビュー・感想・評価

マイ・インターン(2015年製作の映画)
4.0
二通りの視点で楽しめるハッピームービー。

今作は、ファッションサイトを運営するIT企業が舞台であったり「プラダを着た悪魔」の印象が強い「アン・ハサウェイ」が主演だったりと、表面だけを見れば"キラキラ系"のお洒落映画を連想させる要素が満載であり、実際に日本では女性客をメインターゲットにして宣伝活動が行われていた為「女性を謳歌しよう!」みたいな映画のイメージが先行しすぎていて、そういったジャンルのものは普段あまり進んでは観ない僕は、完全にノーマークで特に気にするでもなくスルーし続けていた。

しかし蓋を開けてみれば、物語の軸となるのはあくまで、定年退職後妻にも先立たれ、老後の生活にもあまりしっくりきていない「ベン」が、シニアインターンの募集を受け、全く新しい環境で社会復帰する様を描いた作品であり、本国アメリカではこの「ロバート・デ・ニーロ」演じるナイスシニアであるベンにフォーカスを当てた宣伝方法がとられていたという。

そして、今作には"若き女社長"と"新人社員の老紳士"という対照的な2人の主人公がおり、どちらを主軸として捉えるかによってガラッと作品の空気感も変わって見えるというのは非常に面白いところであった。

まず、ベンを主観に見た場合は、いくつになっても新しい事は始められるし、いつでもそのチャンスは転がっていると、全世代に訴求出来る強いメッセージを感じる事が出来るような作りになっている。

実際に、ベンがインターンによって受けた恩恵は非常に多く、孫ほども歳の離れた親友が出来たり、仕事にも恵まれ日々は充実し、愛する人まで見つけられた。

この姿には、将来に不安を抱える人や、人生を既にリタイヤしている世代にも多大なる希望を与えられただろうし、何よりも生きる為の"活力"になり得る素敵な映像に溢れている。

そしてなんと言っても、ベンにとっての"試練"がなにも起こらなかったのが逆に良かった。

あくまで今作はコメディであり、70歳のご老人が未経験の業界で新しい職業にチャレンジする姿を描いているのだから、本来ならベンの失態によりなにかしらのトラブルを招いてしまったり、慣れない電子機器主体の仕事にまごつく情けない描写があって然るべきなのだが、今作のベンに至っては全ての人に低姿勢でありながら、何事も達観的でかなりスマートに物事に対応し、新人としてのフランクさもありながら、人生の指導者としての威厳も併せ持つ、正に"理想的"という言葉が非常に似つかわしい風体で描かれている。

それは、ベンの視点を通した際のメインターゲットが正にベンと同世代のシニア層であるのだから、映画の中に広がる世界観に"憧れ"を持って没入して貰うには、この"先達者"たるスマートで堂々とした振る舞いはなくてはならない要素であり、紳士という概念自体が服を着て歩いているようなその姿に、強い感銘を受けて貰うことこそが狙いとなっているからだ。

そして、女社長である「ジュールズ」を主観で観た場合には、男社会の中でも勇敢に、かつ女性としての煌めきは忘れないその姿に、女性は特に勇気を貰えるだろうし、完璧に夢を実現出来ていた筈がそれでも苦悩は絶えず襲ってきて、不安に押し潰されそうになりながらも選択していく姿には、どこか親近感も湧きその分共感も得やすかった事だろう。

なにより、男性よりも"共感能力"に長けている女性にとって、ベンのような存在にはとても強く惹かれた筈だ。

女性というのは、知覚や感覚を司る右脳が男性よりも発達している為、自分が思っている事を言葉にして伝えずとも、相手が理解してくれたりする事に好感を得やすいし、逆に考えを否定されたりすると非常に腹立たしく感じやすい傾向にある。

それを踏まえてベンの行動や言動を思い返すと、ジュールズの求める言葉を必要なタイミングで投げかけ、例え否定するような意見であってもジュールズの考えを汲んだうえで、もう一つの選択肢として意思決定は委ねるような伝え方をしているのが分かる。

その高度なコミュニケーションスキルに、はじめこそ目ざといと煙たがっていたジュールズも、次第に本音を曝け出せるようになり、一番の理解者のような存在として認めていく。

社会にしがらみを感じ、それに必死に耐え日夜戦っている女性であれば尚更、包み隠さず本音を晒せ弱音を肯定してくれるベンのような相手が、如何に尊く得難い存在かは言うまでもない訳で、そんな大切に思える人が側にいて、尚且つ地位も栄光も掴んで輝くジュールズは、女性にとっての理想に他ならないだろう。

こうして今作は、上は老人から下は学生まで全方位に向け、将来に対する夢と希望を余す事なく提示しており、ストーリーも最早ファンタジーのような展開を見せつつも、随所に現実感をぶち込んできては甘ったるくなるのを防いだりしてバランス感覚も程よい為、女性に限らず老若男女がすべからくキラキラを楽しめる非常に稀有な、間口の拡い傑作になっていたと思う。
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