バートロー

ザ・ウォークのバートローのレビュー・感想・評価

ザ・ウォーク(2015年製作の映画)
5.0
またも「行って帰ってくるだけ」系映画の傑作が爆誕してしまった。人はエベレストに登ったり急流を下ったりヨットで太平洋を横断したりエクストリームな目的のためには自分の命さえも賭けてしまう無謀な生き物だ。何が人を411mの高さからワイヤーを吊るして42mを45分間かけて歩かせるのか誰にも分からない。しかし、そうした途方もない行為は法律、道徳、言語、人種といった矮小なもの全てを軽々しく超えて、等しくただすげぇと感動を与える。主人公はこの綱渡りを史上最もアナーキーなアートだと言う。彼はただそのアートを完成させたいだけなのだ。アイディアはクレイジーそのものだがアートに対する姿勢は本物だ。本物だから身を乗り出して感動する。

今は無いニューヨークトレードセンター、ツインタワーを完全に再現したり3Dを前提にした「縦」「高さ」を駆使した映像や映画作りはそれだけで凄い。本当に縄の上に立っているような感覚に襲われるし画面を観るのすら怖い時があった。しかし、この映画の魅力はなんといっても主演のJGLの演技にある。フランス訛りをマスターし、綱渡りの特訓をした彼が本物だからワイヤーウォーカー、フィリップの狂気と熱意が本物を錯覚させる。

準備段階から違法行為はもちろん、ビルとビルの間にワイヤーを通すのすら命懸けでとてもスリリング。本番だってもちろん犯罪で、要は犯罪者集団によるケイパームービーでもある。準備から既に面白いので参ってしまうのに、実際の綱渡りシーンがとてもたっぷり尺がとってあるので正直気が気ではなくなってしまう。こんなに見せ場がめちゃくちゃ長い映画も中々ないのではないだろうか。そして最後まで余韻たっぷりな隙の無さ。完璧としか言いようがない。