ずどこんちょ

ザ・ウォークのずどこんちょのレビュー・感想・評価

ザ・ウォーク(2015年製作の映画)
3.5
THE・高所アドレナリン映画!!
1974年、ワールドトレードセンターの屋上にワイヤーを張り、ツインタワーの間を綱渡りしたトンデモ大道芸人がいた。彼の名はフィリップ・プティ。本作はそのノンフィクションドラマとなっています。
まったく突拍子もないことを考える命知らずがいる者だと思いましたが、本当に綱渡りだけで2時間の映画を作るとは。随分突拍子もない作品です。

冒頭から準備が着々と進行し、開始早々にワールドトレードセンターに着いてしまうのですが、なるほど本作の見どころはそこからでした。
警備の目を盗んで機材を屋上まで運び、夜明けまでにセッティングをするという緊迫した夜から徐々に心臓の鼓動が高まっていきます。
まるでスパイドラマのよう。これから前代未聞の綱渡りをしようとしているフィリップや仲間たちの緊張の高まりが伝わってくるのです。

そして、いざワイヤーに足を踏み入れた瞬間から、彼の凄まじい挑戦が始まります。
一歩一歩踏み進めるたびに、私も息をするのも忘れて見入ってしまいました。面白いストーリーや予想を裏切るどんでん返しなどの小細工が無くても、「高さ」を丁寧に再現しただけでこんなに食い入るように見てしまうなんて。
高所の緊張感と死の恐怖は無意識のうちに私たちの身体に染み込んでいるのだと自覚しました。

それと、この映画の主人公はフィリップであり、同時にその相棒は間違いなくワールドトレードセンターでした。
建設当初は高さだけの無粋な建物と評されていた高層ビル。そこに人々の関心を集めて高貴なる命を与えたのはフィリップだったと言っても過言ではないかもしれません。
そんな綱渡りに魅入られた男の夢の舞台も、今は夢の跡地と化しています。命を輝かせたワールドトレードセンターに捧げた敬意と哀悼の意を感じる作品でした。