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くちびるに歌をのodyssのレビュー・感想・評価

くちびるに歌を(2015年製作の映画)
4.5
【教師だって生徒から学ぶ】

この映画を見ていて、思わず知らず『幕が上がる』と比較していました。『幕が上がる』は高校演劇部のお話、こちらは中学合唱部のお話。そしてどちらも指導教師が重要な役を果たしている。共通点が多いんです。

で、出来具合で言うと、こちら、つまり『くちびるに歌を』の勝ちだろうと。
なぜかっていうと、部活に伴う細部をしっかりと描いているからです。
合唱部だって体作りからスタートしなきゃならない。発声法もしっかりと身につけないといけない。その辺をおろそかにしないことが、こういう映画では大事。基本をちゃんと描くことこそ基本なんですね。この映画はその点で優れている。逆に言うと、『幕が上がる』はその辺が甘かった。

また、『幕が上がる』では生徒の家庭事情はほとんど描かれていませんでした。それに対してこちらでは生徒の家庭事情がそれなりに描写されており、しかもそれが重要な役割を果たしてるのです。
生徒の家庭事情を描くことは、筋書きの統一性を決して損ないません。むしろこの映画では逆に作品に厚みを与えているのです。
なぜかと言えば、冷淡で「あんたたちと私は全然違うのよ」という態度をとっていた臨時教師(新垣結衣)は、生徒たちが複雑な家庭事情をかかえる中で、それでも合唱に打ち込んでいるのだということを知っていき、それによって生徒たちを指導する自身の態度を変えていくのだし、また彼女自身がかかえていたトラウマをも克服していくからなのです。彼女は生徒たちを指導するけれど、生徒たちの家庭事情から逆に彼女自身が教えられている。

この映画がすぐれているのは、以上のような教師と生徒との関係を細部までおろそかにせずに描いているからに他なりません。

感動とは、細部の積み重ねの結果なのですね。それがこの映画を見るとよく分かります。

産休教師の木村文乃が魅力的でした。私が監督なら、新垣結衣を産休教師にして、木村文乃を主役にしたいところ(笑)。
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