桃子

隠し剣 鬼の爪の桃子のレビュー・感想・評価

隠し剣 鬼の爪(2004年製作の映画)
4.6
「短編3本分 その2」

この映画も「たそがれ…」と同様、短編3本が合体している。「隠し剣鬼ノ爪」「邪剣竜尾返し」と男女の淡い恋愛を描いた人情劇「雪明かり」(『時雨のあと』収録)の3つである。
先日、夢中になって藤沢周平の隠し剣シリーズを読んだ。「隠し剣秋風抄」と「隠し剣狐影抄」である。
「隠し剣鬼の爪」と「邪剣竜尾返し」は「狐影抄」のほうに収録されている短編で、「鬼の爪」という秘剣は果し合いの時に使う剣ではないことが描かれており、「竜尾返し」はまさに果し合いの時の必殺剣として登場する。短編なので隠し剣を遣う人物も設定も違うのに、映画では一緒になっている。原作を読んだ者にとっては少し違和感があったのだけれど、長編にするために仕方ないのかもしれない。
映画とは離れて少し原作の感想を書くことを許して欲しい。なんともいろんな隠し剣があることかと唖然とした。呆れたのではなくて、感銘したのだけど。藤沢さんって、剣術オタクだったのだろうか。そのあたりのことはチェックしていないが、事細かいことまで描写されていて、それこそ「参りました~」と平伏したくなる。
あと女性の描写が秀逸で、女性好きだったのかなと思った。下世話な意味ではなく、女性に対する優しい気持ち、あたたかい視線を感じるのである。「必死剣鳥刺し」の里尾、「たそがれ清兵衛」の朋江、そして「隠し剣鬼の爪」のきえ。映画では、里尾は池脇千鶴、朋江は宮沢理恵、きえは松たかこが演じているのだけれど、和服の似合う美人女優で、それぞれ原作のイメージに合っていたと思う。
「たそがれ清兵衛」では果し合いの相手になる田中泯が、こちらでは戸田寛斎という剣術の師匠の役で出ていた。田中さんは舞踏家である。身のこなしが素晴らしい。
主人公の宗蔵を演じている永瀬正敏。邦画やテレビドラマをほとんど見ないので馴染がない俳優さんだが、実にいい味を出している。何年前だったか、東京のどこかの居酒屋だったかレストランだったかで、ふと近くのテーブルを見ると、見覚えのある男性が座って友人と話をしていた。「あ、あれ永瀬正敏じゃない?」と誰かが言うので二度見してしまった覚えがある。あ、ちょっと馴染があったんだ…(笑)
映画を最後まで見て、もう1度見たくなったシーンがある。「鬼の爪」でにっくきヤツをやっつけるシーンだ。あまりにかっこよくてスカっとするので、3回くらい見てしまった。
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