カラン

セッション9のカランのレビュー・感想・評価

セッション9(2001年製作の映画)
4.5
闇の中で、感染らない病気が、感染る。

結核が伝染病として恐れられていたことは、宮崎駿の『風立ちぬ』を待つまでもない。その結核の時代の後で、人から人へ感染るという不吉な呪いのような役割を結核の次に担ったのは、癌だったのだと、スーザンソンタグが言っていた。非常に、意外だ。彼女自身も、癌に侵された人であったのだが。癌が感染るのか?癌が感染る・・・。これほどショッキングな無知の告発はそうあるものでもなかろう。スーザンソンタグ自身が被った、周囲の人間による忌避を、私たちは恥るべきだ。癌患者を孤立させるたのは、私たちの恥ずべき無知なのだ。

さて、この映画『セッションナイン』で感染るのは、精神障害だ。

私たちは孤独で、誰にも理解されないと語る。そして語った瞬間になぜ誰にも理解されないのに、自分は語るのかと、苦しい自問自答に追い込まれる。語る存在ゆえに、本質的に人間は孤独で、悲しいくらいに他者とつながっている。

心はつながっていない。私は私なのだから。しかしヘーゲルを持ち出すまでもなく、私が私なのは、他者がいるからだ。

多重人格障害が感染る。圧倒的な不気味さで、心がつながってしまう。見事な闇の深さだ!
カラン

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