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ジェラシーのnetfilmsのレビュー・感想・評価

ジェラシー(2013年製作の映画)
3.8
 フランス映画に出て来る愛や恋を彩る主人公たちは、思春期くらいの若者たちや夢に向かって歩み出した20歳過ぎの若者が多いがこの映画の主人公は30歳くらいの立派な大人である。主人公ルイは離婚した舞台役者で、娘シャルロットにたまに会いながら、新しい恋人クローディアと屋根裏部屋で貧しいながらも幸せに暮らしている。ルイとクローディアは結婚と離婚を繰り返して来た苦労人同士で役者仲間で、芸術家肌のルイをクローディアは献身的に支えようとしている。そういう関係性だから、2人の間には恋の初期衝動のようなものはない。それでも時折顔を見せる焦りや不安や葛藤をガレルは冷静な筆致で描いている。初期衝動はないが、クローディアが恋人の娘シャルロットに初めて会う時の緊張感が素晴らしい。とある公園で画面の奥からゆっくり歩いて来るシャルロットの戸惑い、それを自由奔放な愛情で体いっぱいに受け止めようとするクローディアの愛情が見える。日本の家庭では、大抵このような場面では娘であれば心情は複雑で懐かないのだが、フランスの家庭においては個がしっかりしていて、すんなり馴染んでしまうから不思議である。女性同士だからこそ感じることが出来る痛みの感情を、互いにしっかり共有し、わだかまりなく話せるのはフランス映画ならではかもしれない。

 ヌーヴェルヴァーグの時代からJLG作品やスコリモフスキの『出発』のカメラマンを務め、その後もガレルの盟友でポスト・ヌーヴェルヴァーグのピアラの作品や、ゲンズブールの作品を務めたウィリー・クランならではの素晴らしいショット群は、筆舌に尽くし難い素晴らしいものであった。また2人の住む部屋の素晴らしさも見逃せない。娘シャルロットが覗く鍵穴、光の差さない屋根裏部屋、殺風景に見える内壁、そして決して広くない4人がけの食卓、エレベーターはなく険しい階段などが否応なしにヌーヴェルヴァーグを想起させる。アナ・ムグラリスの表情の素晴らしさも見逃せない。ハスキーがかった声で決して台詞は多くないが、その苦悩や葛藤を魅力的なクローズ・アップで表現している。ガレルは父親のモーリス・ガレルの30歳くらいのエピソードを思い出し、この映画を着想した。映画の中で主人公を演じるのは、モーリスの孫でフィリップの息子でもあるルイ・ガレルである。妹も出演する今作は、個人的な物語をシンプルな筆致で綴った実に味わい深い物語である。
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