ゆず

沈黙ーサイレンスーのゆずのレビュー・感想・評価

沈黙ーサイレンスー(2015年製作の映画)
4.1
日本史の教科書に書かれていた「踏み絵」が、初めて現実感を持って目の前に立ち上がった。
ただキリストの絵を踏ませただけではない。そこには信者一人ひとりの葛藤や苦悩、そして後悔があった。歴史には残らない人々の心情。
そんな風に迫害される「隠れキリシタン」を、苦渋の形相で見守るしかなかった宣教師の苦悶が作品の軸となっている。篤い信仰心のために命を奪われる者を目の当たりにし、彼らに救いの手を差し伸べない神に怒りすら覚える。信仰が揺らぐ。

「神はなぜ我らをお救いにならないのか」
この問いはこれまでにもいろんな作品で目にした問いだ。
その模範的な答えは大体こうだ。
「これは神から与えられた試練なのだ」
こう返されてしまうともうなんとも言えない。あとは各人がそれでも神を信じるか、あるいは救ってくれない神に見切りをつけるか。
本作はひとりの宣教師の立場から、この問題に真っ向から取り組んでいる。何のために人は神を奉じるのか。教義に殉じることに意味はあるのか。
そして、自分が信じる神と他者が信じる神とは本当に同じものなのか。
無宗教の私でもとても興味深い内容。むしろ無神論者だからこそ気になる内容だったかもしれない。神は信じないが、それを信じる人間たちが織りなすドラマは非常に興味深い。それもまた人間のナマの姿のひとつだから。
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