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ジェンダー・マリアージュ ~全米を揺るがした同性婚裁判~のRのレビュー・感想・評価

4.5
プライド月間第二弾として見てみた! アメリカにおける同性間の婚姻承認への闘いを描いたドキュメンタリー。もちろん結果がどうなったか我々は既に知っているのだが、そこに至るまでのプロセスと感動的なドラマを概観できる、とても興味深い作品だった。2008年、カリフォルニアにて一度は認められた同性婚。だが、同年の11月、州憲法修正案「提案8号」が住民票投票で可決、これにより結婚は男女間のみに限られることになった。提案8号は人権侵害であるとして、人権擁護NPOが二人の弁護士を立てて起訴するのだが、この2人が何と!それぞれ民主党・共和党を代表する弁護士デビッドボイスとテッドオルソン。二人はブッシュ時代、大統領選挙の投票数再集計をめぐって争った敵同士だった。まさか共和側のテッドが同性婚アリ側につくとは誰も予想しなかった。リベラル側からの反撥がありつつも、結婚という「保守的」制度が同性愛者に適用されないのは違憲である、と表明するテッド。まさに最強のふたりである。彼らが原告側二組のゲイカップルと手を組み、人間として最高の善意と誠意を持って、真摯に人権問題に取り組む姿は、死ぬほど感動的。ふたりともお爺さんに近い年齢なのに、誰よりもイケてる! カッコいい! 赤の他人の悲しみ、苦しみに寄り添い、彼らを愛し、激励しながら、正義への闘いに挑んでいく。これこそが人間のあるべき姿だと、生きる道だと、ふたりから放たれる美しき輝きが物語っている。ほんまに、マジでカッコいいから、見てほしい! そして、二組のゲイカップル! 彼らが互いを愛し合うその姿よ! 誰がどう見ても、そこらへんに転がってる簡単な恋愛とはまったく異質のものだ。この衝撃的なほど歴然たる差は、一体、何なのだろうか。互いの瞳を見つめ合う彼らの、相手に対する深い深い敬意、愛情、友情、優しさ、慈しみ、こんなカップル現実世界で見たことねーよ!!! だいたいのカップルが妥協と忍耐と諦めと開き直りで出来上がってるようにしか見えないこの世の中の! どこに! こんなカップルが! 存在し得るのか! アメリカだから? マイノリティだから? それとも純然たる運の良さ? 彼らを見てるとかなりいろんなことを考えさせられる。ホントは彼らみたいな人たちこそ、真に結婚にふさわしいのでは。てか、そもそも結婚という制度の在り方自体、問われるべきなのではないか。てかずっと長いあいだ問われてるよね。まぁそれはさておき、なぜ彼らゲイカップルは、そもそもわざわざ「結婚」をしたがるのか、「結婚」に固執するのか、この映画を見ると、そのへんも明確に理解できます。なるほど、そりゃ真に愛する人がいるなら結婚できたほうがいいわ。ボク個人としては、結婚はしようがしまいが個人の自由だと思ってるし、結婚が人間の幸せと直接関係してるかと言われたら、まったく関係ない、としか言えない。不幸な人間は結婚しててもしてなくても不幸だし、逆もまた然り、要は自分が自分そのものとして独立して幸せであり、そして同時に他者の幸福のために自分の命を使えている、それこそが人間的幸福の源泉であり土台であると思う。不幸な人間と不幸な人間が社会的責任を背負っていっしょに暮らし始めたりしたら、そりゃー険悪にもなっていくわ。そして、本作でもう一つ大きく印象に残るのが、同性婚に反対の立場だった人が、議論していくうちに、相手の立場で考えようとすることをやめてしまっていたことに気づき、意見を変えるシーンだ。そんなこんなを見ながら、ボクは「中道」について考えていた。「中道」とは、足して2で割った真ん中、などという中間主義や折衷主義ではない。本来は、「道に中る」という意義で、正義や道理に適うものだ。それは生命の全体観に立った生き方でもある。世の中には、有無、善悪に限らず、さまざまな二分法がある。物質主義と精神主義。資本主義と共産主義。自国民と外国人。多数者と少数者。自己と他者、等々。 これらの二分法への固執には、一方に偏り、他方を切り捨てる傾向がある。「中道」の眼は全く違う。 どちらか一方を切り捨て、犠牲にする発想は持ちえない、なぜなら、いずれの一方にも、そこに人間がいるからだ。一切を生かして新たな価値を生み出す生き方。まさにそれこそが本作最大のテーマなのではないか、と思った。さて、気になるのは日本の今後だ。今日も、たまたまとある学生と話をしていて、「ホントはクラスに2〜3人はいる計算のはずなのに、私は同性愛の人にひとりも会ったことがない、まだまだ日本にはそういうのをオープンにできない空気があるんでしょうね」と彼女は言っていた。たぶん実際にそうなのだろう。つい先日も、LGBT法案の国会への提出が見送りになったばかりだし、パートナーシップ制度を取り入れてる自治体も100を数えるばかり、しかも保証等も結婚とはまったく別物のままだ。まだまだ課題は山積みだ。どうやら我々小市民にできることも、数少なくはあるが、あるようなので、微力ながら、どしどし協力していきたい次第である。まぁ、くどくどとくだを巻いてしまいましたが、両手を挙げて推しておきます、せっかくのプライド月間なので、是非是非見てみてください。
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